作家・ライターとして、多くの20代~40代の男女に「現代の男女が抱える問題」について取材をしてきた佐野倫子。その赤裸々な声は、まさに「事実は小説より奇なり」。社会も価値観も変化していく現代の夫婦問題を浮き彫りにします。

今回お話を伺うのは、お子さん3人を抱えて、働き盛りの夫ががんであることが判明した千鶴さん(43歳)。幸せで平和な子育ての毎日が、家族の病気を境にがらりと景色が変わってしまう……考えたくはないけれど、どの夫婦にもあり得る体験を語ってくださいました。

 
取材者プロフィール
 千鶴さん(仮名):43歳、夫のがんが発見された当時は専業主婦。お子さんが3人。

 正敏さん(仮名): 46歳。働き盛りでがんが発見される
 


夫は5年後、もしかして……妻の慟哭


「病室での医師との会話は、一生忘れられません。『5年生存率は、3割から4割でしょう』という言葉をきいた途端、指先が冷たくなり、喉がからからに乾いていくのがわかりました」

午前中のカフェで取材に応じてくれたのは東京郊外に住む3児の母、千鶴さん。飾り気のない、家事をこなしてきた手が、3人の母らしい温かい雰囲気です。

千鶴さんは6年前、まだお子さんが小・中学生の時に夫ががんを告知されるという経験をされました。

日本人が一生のうちにがんと診断される確率は男性65.5%(2人に1人)、女性51.2%(2人に1人)【国立がん研究センター がん統計2019年データより】です。

これほどの確率であると、残念ながら誰もが無関係、無関心ではいられません。そして病気は、どんなに小さな子どもがいても、どんなに重要な仕事をしていても、関係なくある日突然襲ってきます。

千鶴さんの場合は、一家の大黒柱である夫・正敏さんががんと診断されてしまいました。ちょうど第2子である長男が中学受験を終え、私立中高一貫校に通うことが決定したタイミングで発覚します。

「次男の入学式の数日前のことでした。夫が駅の階段から足を滑らせて、肋骨を折ったかもしれないと救急車で運ばれてしまったんです。検査入院をして、そのケガは大事なかったのですが、医師が『腎臓に気になる影がある。すぐに検査したほうがいい』というのです。そういえば夫はその前年に20年近く勤めた会社を辞めて、ベンチャー企業に転職、忙しさにかまけて健康診断を2年受けていませんでした。

まさか、という気持ちでしたがそのまま検査を受けると、がんが発覚。ステージ2もしくは3だろう、あとは手術をしてみないとわからないというのです。

青天の霹靂という言葉がありますが、まさにそんな感じです。夫は体育会系出身、丈夫が取り柄、みたいな人。頭が真っ白になりました。その時、子どもたちは15歳、12歳、9歳。私は専業主婦でした」

おなじように子育て中の筆者も、言葉を失いました。経済的に夫に100%頼っていて、突然一人で3人の子を育てなければならない状況になったら……。

千鶴さんはどのようにその状況に対峙したのでしょうか?