新婚の夫が、毎週のように通う場所
初めて義母に会ったとき、とっても優しそうで上品な人だなとほっとしたという茉優さん。義父もかくしゃくとした雰囲気で、技術系の特許を持っている研究者でもあり、みるからに経済的に余裕があるご家庭でした。
すでに妊娠していたこともあり、入籍をしてすぐに二世帯住宅にリフォームをスタート、臨月前には引っ越したという茉優さん。二世帯住宅の玄関はひとつでしたが、水回りや台所は分けてもらい、2階に茉優さんと英輔さん、お子さんが住むことになりました。
「新生児の育児は大変でしたが、20代でしたから体力もあり、結構なんでも一人でできました。昔からマメだね、って言われることも多いんですが、あまり誰かに頼み事をするのが得意ではなく、自分でやったほうがはやいなって思うタイプです。母が早くに亡くなってしまったことも関係しているかもしれません。
夫は、そんな私に安心したのか、子どもが1歳になる前に趣味の登山を再開しました。ん? 今? っていう気持ちはありました。私は山に登りたくても子連れじゃ登れないし、そもそも30分とゆっくりする暇はなかった。でも、人付き合いの苦手で他に趣味がない夫が、登山にいくと楽しそうだし、まあいいかなって。このことを知った友人からは、『甘すぎる!』と言われましたが…(笑)。もともと楽天的なんです」
妻となり、母となり、それまでとは違う環境のなかであたらしい人生を構築する茉優さん。
取材でお話を伺いながら、改めて結婚後に義両親と同居するということについて筆者も考えました。いくら夫の両親とはいえ、それまで知らない人だったずっと年上の夫婦と同居する、というのは考えてみればすごい話です。気がついたらそこにいる、あるいは自分で選びとった気が合うパートナーというわけではなく、突然現れる家族――。
しかし生来の明るさとマメさで、茉優さんはすっかり義両親にも気に入られ、とくに義父の正さんが茉優さんの人柄を絶賛。少々心配なところがあった息子にとてもいいお嫁さんが来たと知人に自慢していたそうです。
義母の芳江さんは、いわゆるお嬢様育ちで家事は週3回呼ぶハウスキーパーに任せている方でした。小さい子どもがいても、軽自動車でどんどんスーパーに行ったり用事を済ませたりするフットワークの軽い茉優さんを頼って、用事を頼むことも多かったそう。
次第に、一家全員が茉優さんをとても頼りにするようになります。義父の正さんは顧問税理士とのやりとりや、お世話になったひとへの季節の贈り物なども茉優さんに相談するようになり、茉優さんは忙しくも、一家の要になれたような気がして充実した毎日を過ごしていました。夫の英輔さんは月に2回、週末は山に登ります。ソロキャンプをすることもあり、うらやましく思うこともあったそう。でもそれ以外は穏やかで特に何も問題はありません。
その後、5年のうちにお子さんは3人になり、茉優さんは忙しくも幸せな日々を過ごしました。
しかし、そんな平穏は、義父が突然脳梗塞で倒れたことで崩れ去ってしまいます。
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