「GUCCIを着て貧困を語りなよ」

【坂口涼太郎×ヒオカ】恥をかきながら、誰かに「捧げる」ものをつくる——表現すること・書くということ_img0
1冊ずつ丁寧にサインを書いて、ファンの方に手渡しするヒオカさん。

坂口:『死ねない理由』の柚木麻子さんの話もいいよね。「GUCCIを着て貧困を語りなよ」っていうところ。

ヒオカ:貧困当事者として取材を受けるとき、髪の毛をまとめてすっぴんで「清貧であれ」みたいなことを求める人って、少なからずいるんです。「貧乏なのにカラコン買えるんですか?」っていうDMも来たりして。でも、柚木さんに「GUCCIを着て貧困を語りなよ」って言われて、たしかに! そんな格好してもいいじゃん、って思えたんですよね。

坂口:それはなんで「いいじゃん」って思えたの?

ヒオカ:元々“ちぐはぐ”が好きなんですよ。意表を突くというか、いい意味で裏切るというか。だって、その方が面白いじゃないですか。本当はめちゃくちゃ派手な服が好きだし、ロックな感じが好きなんです。それを無理やり抑えて「清貧であれ」の声に従っても、そんなにいいことないなと思ったんですよね。すっぴんにまとめ髪なら、服装の批判コメントを送ってくる人はいなくなるかもしれない。でも、それだけじゃないですか。「私の人生」なんだから何着てもよくない? って思えたんです。

坂口:そもそも、おしゃれはお金がかかるのか? っていうのもあるよね。私も長らくお金はなかったけど、おしゃれって自分を鼓舞していくみたいなところがあったかもしれない。

 

ヒオカ:髪を染めたり、カラコン入れたりすることもそうですけど、おしゃれは贅沢だ! 最低限で生活しろ! という世間の圧力は強いですよね。『死ねない理由』の大きなテーマでもあるんですけど、そういった「自分の楽しみ」をすべて削ってでも、本当に「生きたい」と思えますか? と。

坂口:私たちエンタメ業界はコロナ禍でずっと「不要不急」扱いされてきたから、それは同意見。私は、エンタメは「必要至急」やと思ってる。さっきも、生活が大変な人にもエンタメは「届くべき」って話したけど、演劇だったらチケット代を工夫したり、目が見えない、耳が聞こえない方には補助音声や手話で鑑賞をサポートしたり、いろいろできることはあるはず。いろんな人が、同じ空間でエンタメを楽しめるようにしたいし、それが当然になるといいなって思うよね。