「こんな報告、ある!?」
改まった調子で「話があるの」なんて英玲奈からメールがきたのは、一人暮らしをするようになってから初めてのことだった。
これまではなにか取りに来るものがある、とか親戚の集まりがある、とか、そういうときしか実家に寄りつかなかった。
私に話があるなんて言われて、内心嬉しくて、仕事を2時間早退、夕飯は気合いを入れて準備した。気が合わないとわかっていても、やっぱりうちにくると向こうが言ってくれば嬉しい。
英玲奈が好きなデミグラスソース味のミートローフに、仕上げの生クリームをかけようかというとき、スマホが鳴った。メッセージを開くと英玲奈から。
――ごめんなさい、体調が良くなくて、行こうと思ったけどやめます。仕事が忙しくて、しばらく行けないと思うから……話っていうのは、私結婚することにしました。彼の名前は深田浩二さん。12歳年上で、京都出身の人。大阪で働いています。子どもができたから、私は会社を辞めて家庭に入ることにしました。
「はあ?」
私は手にしていた生クリームのパックを、思わず取り落としてしまった。
こんな情緒もへったくれもない結婚の報告があるものだろうか。おまけに内容があまりにも初耳のことばかり。そして、子ども。
「……こ、子ども!?」
反射的に通話ボタンを押して、英玲奈にかけたけれど、どういうわけか電話に出ない。今メッセージを送ってきたのならパッと出てもよさそうなものなのに。
――まさか妊娠したってこと? あのクールな英玲奈にそんなに好きな人がいたの!? いつの間に!? 京都のひととどこで知り合ったの? 12歳年上って、36? そんないい大人がまだ大学生みたいな英玲奈と結婚するなんて、あの子がそんなにおじさんのところにお嫁にいくなんて、そんな、そんな……。
私はオーブンから出して湯気をたてているミートローフをそのままに、へなへなとダイニングの椅子に座り込んだ。
【中編】憤慨する母。一方、娘から見た母とは……?
イラスト/Semo
編集/山本理沙
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