猫と一緒に暮らす人にとっては、家族のように大事にしている猫と1日でも長く暮らせるのは幸せなことです。その一方で、猫も飼い主も年齢を重ねていくことになります。

それでも、猫とともに暮らしてきた時間はかけがえのないものですし、シニアになった猫だからこそ、愛着もひとしおです。そこでミモレでは、シニア猫(ここでは10歳以上と定義)と暮らす人たちのお話に耳を傾けてみようと思っています。

今回登場するのは、フリーランス編集・ライターの宮脇灯子さん。パートナーで写真家の“ツレアイ”さん、地域猫出身のはちと、保護団体から譲渡を受けたハナと一緒に暮らしています。犬や猫が苦手で、ましてや「飼う」という選択肢が自分の人生に現れることは、生涯ないと思っていた宮脇さんが、高齢や病気の猫を迎え入れるようになり、住まいを“老人(猫)ホーム”と称するようになったのには、先代の元地域猫・ぽんたとの出会いがありました。

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「また写真撮るの?」といった表情のはち(写真左)と、野良時代から抱っこOKだったハナ(写真:小林写函、以下同)。

<飼い主プロフィール> 
宮脇灯子さん(50代)
フリーランス編集ライター。ツレアイと猫2匹と暮らす。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。著書に『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)。現在は、犬・猫などのペットの情報サイト「sippo」で著書の続編に当たる「続・猫はニャーと鳴かない」を連載中。

 

<同居猫プロフィール> 
はち(推定11歳)
茶白のオス猫。先住猫・ぽんたの野良仲間。はじめて宮脇さんの近所に現れたときには首輪をしており、去勢済みだった。近隣住民にかわいがられてご飯をもらっていたが、2019年、推定6歳の時に宮脇さんに保護され、家猫になる。保護直後に動物病院で検査をして猫エイズウイルス陽性であることが判明。人懐っこくて甘えん坊だけど、ストレスには弱い。

ハナ(推定12歳)三毛のメス猫。人慣れしていて甘え上手、おとなしくて手がかからない地域猫だったが、推定9歳の時に、周囲の環境の変化などがあり、保護団体に保護される。宮脇さんがはちの同居猫を探す時に、「はちと同じ猫エイズキャリア猫であること」「推定8歳(当時)のはちと歳が近いこと」「できればメスであること」「猫エイズキャリア以外の疾患は持っていないこと」「人慣れしていること」という条件をクリアしていたことから、2021年にトライアルを経て、宮脇さんの家猫になる。

〈歴代猫プロフィール〉
ぽんた(推定11歳没)
ハチワレのオス猫。はちと同じ野良猫で去勢済み。はち以上に人馴れしていて、人になでられるのが大好き。路上で宮脇さんの膝の上に乗って寝息を立てるほどだった。その数日後、片脚をケガしていたこともあり、宮脇さんに保護される。歯がほとんど残っておらず、動物病院で推定7〜8歳と診断された。家猫になって4ヶ月目に慢性腎臓病であることが発覚し、余命2年と告げられる。その2年8ヶ月後の2018年11月にこの世を去った。

 
 


犬や猫が苦手だった私が、人懐っこい野良猫のぽんたと出会い、はじめて猫がかわいいかもと思うようになりました。それがきっかけで、今まで知らなかった野良猫や保護猫のことを調べてみたところ、過酷な生活環境に置かれていることを知りました。地域の人にご飯やお水をもらっていれば、自由気ままに暮らすこともできますが、猫もやがて年老いて弱っていきます。路上で人間にお腹を見せてなでてもらい、その人が去ると見送りまでしていたぽんたは、もしかしたらそろそろ安全な家に入りたいと考え、“終活”をしていたのではないかと思ったのです。

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野良猫時代のぽんた。フレンドリーで、かぎしっぽがトレードマーク。

私は一緒に暮らすツレアイを説得して、ぽんたを家に迎え入れました。ぽんたが家猫として馴染んだ4ヶ月目に、慢性腎臓病であることが発覚し、余命2年と宣告。投薬などの闘病生活ののち、2018年11月にこの世を去りました。ぽんたと暮らしたのは3年弱でしたが、ぽんたは動物が大の苦手だった私をがらりと変え、多くのことを教えてくれました。

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家に迎え入れて3週間後のぽんた。昼寝中の飼い主のお腹の上に初めて乗った、記念すべき瞬間!

ぽんたが旅立ってから1ヶ月、治療や介護はできる限りのことをしたし、最期も穏やかだったけど、それでも寂しい気持ちが残っていました。かといって、ぽんたの面影を追って猫を迎え入れるのは、その猫にとっても、自分にとってもよくはありません。なので、ぽんたと出会った時のように、自然なご縁があればと考えるようにしました。

そんな時、再び路上で、かつてぽんたと一緒にいたこともある茶白猫を見かけます。それが、いま一緒に暮らすはちです。路上で保護して動物病院に連れて行ったところ、発病はしていないものの、猫エイズウイルス陽性ということが判明しました。根本的な治療法はなく、できるのは症状を抑える対処療法のみ。あとはストレスをかけず、快適な住環境を提供すること。先住のぽんたは余命のある腎臓病でしたが、猫エイズは発症しなければ何年も生きられるので希望が持てました。

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外にいた頃のはち。当時は「にゃーにゃ」と呼んでいた。

ぽんたは慢性腎臓病で、はちは猫エイズウイルスキャリア、どちらも野良猫生活が長くて、私が保護した時点で、人間でいえば約50歳前後と若くもありませんでした。おそらく猫を飼おうとする人の多くは健康で元気いっぱいな子猫を探すと思いますし、わざわざ病気を持っているシニア猫を選ばないかもしれません。

でも、私は逆に動物嫌いで猫のことを全く知らないまま、路上で出会ったぽんたやはちを受け入れたいと思ってしまった。迎えるにあたって猫との暮らし方や、保護猫をとりまく状況について後から勉強しましたが、今から考えると、猫に対する先入観がなかったのはかえってよかったと感じています。

また、猫の飼い主さんは、自分を “ママ”などと呼び、子どものように猫をかわいがっていらっしゃいます。もちろん私も「猫はかわいい!」という気持ちでいっぱいです。とはいえ、私はどちらかというと猫の母親というよりは、猫が余生を過ごすための“老人(猫)ホーム”のオーナーのような感覚。だから、ぽんたの介護や看取りという経験を得たのだから、新たな“入居者”を迎えてやりたい。そんな気持ちが高まって、はちを保護することに決めたのです。

 
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