「やってあげる」感覚はなし。必要な働き掛けをしているだけ

発達障害児と定型発達児が影響し合いながら成長。日本の幼稚園が実践する「インクルーシブ教育」に、海外からも熱い視線!_img0
写真:Shutterstock

「手を差し伸べる」と書きましたが、当の子どもたちには「やってあげる」感覚はないように感じます。彼ら彼女らが考えているのは、「どうすれば自分を含めたクラスのみんなが楽しく過ごせるか」であり、そのために必要と思う働き掛けをしているだけなのです。

 

例えば、ASD児のF君が保育室を飛び出して、廊下にしゃがみこんで、そこにある掲示物を興味津々に見つめていたときに、F君の傍らに寄ってきた3人の女の子が、手をとって保育室に戻るよう促すのか……と思いきや、3人はF君をしばし見守った後、「何がおもしろいの?」と声を掛けました。きっと、無理やり教室に連れ戻そうとすれば、F君がパニックを起こすと知っているのでしょう。

こうした光景は、本園では何ら特別なものではありません。例えば、おやつの時間に「いただきます」を言う前に手を出して食べようとする子がいれば、周囲の子が「まだだよ」と言ってやさしく諭します。また、滑り台の上で躊躇している子がいれば、ごく自然にさっと周囲の子が手を差し出します。別に、保育者がそうしなさいと指導しているわけではありません。

ASD児との関わり方は、いろいろな専門書で述べられていますが、本園の子どもたちはそうした知見やスキルを日々の経験の中で身につけているのです。そんな子どもたちの行動に、私たち保育者が学ぶことも珍しくありません。