よくある間違い③
“腸活ってとにかく「善玉菌」を増やせばいいんでしょ?”
よく、腸内には体にいい影響を与える「善玉菌」、逆に悪い影響を与える「悪玉菌」、その2つのうち数が優勢なほうに味方する「日和見菌」がいるといわれますが、じつはたとえ「善玉菌」でも本来増えるべき場所でないところで増えると「悪玉菌」の働きをすることがあります。
本来大腸にいるべき腸内細菌が小腸で増えると「小腸内細菌異常増殖症(シーボ)」という病気になります。腸内細菌には「住所」が重要なのです。
私たちの腸内には、他にもアーキアと呼ばれる生物(別名、古細菌とも呼ばれていますが、厳密には細菌でもウイルスでもない単細胞生物で、腸内でメタンガスを発生させます)、カビ(真菌)類、それにウイルスなど、100兆〜1000兆の微生物が暮らしています。こうした微生物と、微生物がもつ300万個を超える遺伝子(これは人間の遺伝子の150倍もあります)を含めて、「マイクロバイオーム」といいます。
マイクロバイオームは腸だけでなく、皮膚の表面や口の中、女性器内など至る所に存在していますが、その中でも腸は、最も大きいマイクロバイオームの本拠地です。
腸に巨大なマイクロバイオームの都市があると見立ててみましょう。ここに多様な住民が住んでいて、彼らは清掃作業員、配管工、消防士、医師といった職業に就き、それぞれの役割を果たしています。そのバランスが保たれている限り、都市は順調に機能し、体を守るほうへと働いています。逆に医師ばかり増えても都市は成り立ちません。さまざまな職種の人が必要なのです。
これは実際の腸でも同じこと。つまり、「善玉菌」が腸にいいからと、極端に1つの「善玉菌」ばかりを摂ることよりも、腸内のマイクロバイオーム全体の生態系を大切にしてほしいのです。
たとえば、腸内細菌はそれぞれ異なる酵素を持っており、Aの腸内細菌が(A)という代謝物質を作り、(A)からBの腸内細菌が(B)という代謝物質を作り、次に(B)からCの腸内細菌が(C)という代謝物質を作り……という具合に、腸内細菌が全体として滝の流れ(カスケード)のように働き、バトンリレーをするようにからだによい物質を作り出すからです。
腸活の中でも私たちが自分で手軽に取り組めるうえ、最も効果を出しやすいものが「食事」です。生態系を大切にするということは、食事に当てはめると、腸にいいからと何か一つの食材ばかり、もしくは一つの成分ばかりを摂るのを避けるということ。なるべく多くの種類の食べ物を食べると、それをエサにして多彩な腸内細菌が増えてくれます。
詳しくはこれからご紹介していきますが、食事では1日5皿(350g以上)の野菜と200gの果物を摂ることを意識しましょう。ただ、野菜ばかりではダメで、たんぱく質4割、炭水化物3割、脂質1割、野菜・果物・海藻などを2割の割合で摂るのがベストです。
よくある間違い④
“生きた「善玉菌」を摂るために、ヨーグルトばかりを毎日食べています”
特定の「善玉菌」を極端に取り入れることよりも、たくさんの「善玉菌」を元気にし、腸内環境全体を良好に整える意識を持ってみましょう。そのためにも、ヨーグルトだけに頼るのではなく、多様な食品を摂って「全方位」から腸内環境を整えてみてください。
たとえば発酵食品は、乳酸菌などの「善玉菌」を直接腸内に取り入れることができるのでオススメです。ぬか漬けやすぐき漬け、キムチ、ザワークラウトなどの植物性の食べ物のほか、ヨーグルトやチーズなど、動物性の食べ物からも摂ることができます。
以上のように、からだによい働きをする菌をヨーグルトや発酵食品で摂ることを「プロバイオティクス」といいます。これに加えて、よい菌のエサとなる水溶性食物繊維を摂って菌を増やすことを「プレバイオティクス」といいます。海藻やゴボウ、キノコ類などです。プロバイオティクスだけでなく、プレバイオティクスを組み合わせるのです。
また、日本人の75%は乳糖不耐症といって、ヨーグルトなどの乳製品に含まれる乳糖をうまく分解・消化できません。腸の調子をよくしようと、よかれと思ってヨーグルトをたくさん食べていた人が、乳糖不耐症を疑って食べるのを中止したら、すっかり下痢や腹痛が止まったというのは、よく見られます。
食べ物は、人によって合う・合わないがあるので、「自分の腸に合った食に気づく」ことも重要です。以上が、腸活の基本の「き」です。みなさんの認識は合っていたでしょうか?
次回は、みなさんの美容や健康に直接関わる、老化&万病の元「腸もれ」についてや、通常の腸活ではますます体調が悪化してしまう人に向けた食事法についてお伝えします。
『60歳で腸は変わる 長生きのための新しい腸活』
¥1540
(新星出版社刊)
“自分の寿命は自分で決められる。”今やそんな夢のような話が、現実のものになりつつあります。寿命を左右するのはズバリ「腸」。この本は、全身の老化を招く「老いる腸」から、元気で長生きできる「長生き腸」へと、あなたを導きます。カギとなるのは、長生きのための5つの「ご長寿菌」。本書では、それぞれのご長寿菌の働きや、それらを育てるための食事法をメカニズムとともに解説します。さらに、がんや認知症など年齢を重ねるほどにかかりやすい病気や症状についても、腸という観点から解説。今回の記事の内容についても深掘りしており、ミモレ世代にも、そしてその親世代にも役立つ内容となっています。
イラスト/佐々木恵子
取材・文/中田絢子
編集/國見 香
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