大物司会者に共演NGを出されて、ハードな海外ロケへ

第一印象というのはよくその人物を表していると、半世紀あまり生きてきてつくづく思う。あの時「一体何を怖がっているんだろう」と思った「何」の中身を、私はのちに夫婦となってからだんだんと知ることになるわけだが、25歳当時の私だって機能不全家族育ちの相当に自意識を拗らせた若者だったのだから、まあお互い様である。

 

そもそもなんで私がその海外ロケの仕事をすることになったかって、ゴールデンタイムの特番で大物熟年男性司会者に共演NGを出されて、すっかり「女子アナ」という役割に嫌気がさしていたからなのだ。「セクハラおっさんのご機嫌取りのアシスタントなんてうまくできないです。女性アナに求められている役割自体がなんかおかしいし、そもそもあの番組自体が茶番」などと上司に相談したものだから、その心ある女性上司が「そんな仕事はしなくてよろしい。私が小島に合う仕事を見つけてあげる」と言ってくれた。そこへ、とある番組からロケに出ないかと声がかかった。局アナが10日以上も海外ロケに出て通常業務を休むのは前例がなかったが、その私のメンターでもあった女性上司が全力で応援してくれた。彼女はのちに「小島、ナレーションの行間は人生で埋めるものよ」「小島はサラリーマンとは結婚しない方がいい。一匹狼の男にしなさい」など数々の貴重なアドバイスをくれた。

さて実際にロケに出てみると、オンボロの車で砂漠の真ん中を何時間も走るわ、深さ1000メートルの谷スレスレにガードレールのない山道を行く途中でエンストするわでなかなかに地の果て感満載のロケであった。そして高地だったので酸素が薄かった。大気圏の天井が見えていて空はドーム状の黒々とした青だった。高地の野原で足元のサボテンに気をつけながらやむをえず排尿などしつつ、ようやく辿り着いた山奥の小さな村にゲリラの拠点があったりしたので、今考えると生きて帰って来られて本当によかった。

「お願い、こっち入ってこないで」過食嘔吐がやめられない私が夫の部屋に転がり込んだ頃のこと【小島慶子】_img0
写真:Shutterstock

吊り橋効果という言葉をご存知だろう。一緒に怖い体験をするとうっかり好きになるというやつだ。多分それと、地上に降りてきて酸素濃度が一気に濃くなったショックかなんかだったと思うのだが、私はロケを終えて日本に帰ってきてしばらくすると、笑いながら怖がっていた男と同棲するようになった。展開が急だが、一度だけなんかのライブに一緒に行って、帰りに部屋に遊びに行ったらボロいマンションの狭い部屋だったが私の部屋よりもはるかに居心地が良かったので、そこに住むことにしたのだ。