エッセイスト・小島慶子さんが夫婦関係のあやを綴ります。
今朝も5時過ぎにソファで目が覚めた。二晩連続のソファ寝だ。なんでベッドで寝なかったかというと、取り込んだ洗濯物が山積みになっているからだ。ノロノロ起きてダイニングテーブルを見ると、閉店直前のスーパーで買った惣菜の食べ残しがパックのまま放置されている。
昨夜は帰りが遅くて、なのに帰宅するなりゴミ捨て業務だった。引っ越しから1ヵ月半を経て、先日ようやくバラした期限切れ非常食品から発生した大量のペットボトルと空き缶を、洗って分別して玄関に積んであった。邪魔だ。放置すれば洗った缶から異臭が漂う。捨てねばならない。しかしゴミ捨て場が遠いのだ。寝不足で深夜まで働き、朝から何も食べていないのだがゴミを捨てないとならない。何往復かしている途中で、ちょっと泣きそうになった。すると熟年のご夫婦がエレベーターのドアを開けてくれた。人の情けがしみじみ有難い。
私にも、夫がいるんだよなあ。仲良さそうな二人の姿に切なくなった。夫がいれば、二人で手分けしてゴミ捨てできるのに。しょんぼりして部屋に戻り、惣菜パックをそのまま並べてメールチェックしながらもそもそ食べた。それから流しにある皿は見ないことにして原稿を書き、ちょっと仮眠をとふらふらソファに倒れ込んだのだった。3時間は寝たので、まあよしとしよう。
あと半年ぐらいで夫が日本に帰ってくる。だから今私は、二人暮らしシミュレーション中だ。トイレに入るときは、入ろうとしたら塞がっているかもしれないと考える。洗面所を使うときは、使おうとしたら塞がっているかもしれないと考える。イライラしないように。いいか慶子、もうすぐそれが普通になるんだぞ。ひっきりなしに独り言を言うのもやめねばならない。風呂上がりに裸で歩き回るのもやめよう(昔は見られても平気だったが今は違う)。壁の向こうからいびきが聞こえたり、すぐ後ろで不意打ちのくしゃみをされるかもしれないが、腹を立てちゃいけない。生理現象なんだから。集中しているときに「お茶飲む?」と話しかけられても、邪魔すんなとか思っちゃダメだ。親切なんだから。うっかりシューズクローゼットを自分の靴でいっぱいにしてしまったが、半分空けねばならない。空間はなんでも半分、洗い物とゴミは倍。視界の隅に誰かいる。それが日常になるんだ、適応せよ。
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