「一人暮らし」には認知症リスクが!
さて、ここからは孤立をメインに、孤立と認知症リスクについて考えていきたいと思います。
これまでの研究によれば、社会的な孤立、すなわち一人でいる生活は認知症のリスクが高まることと密接に関連していることが繰り返し示されています(参考文献1,2)。また、3万人以上の脳のMRI画像を確認した研究では、おひとりさま生活が続くとその後に脳の容積が減ることにつながると確認されています(参考文献2)。
また、こんな研究もあります。一人暮らしとともに運動しない生活や高血圧、肥満などの他の認知症のリスクとの比較を試みたところ(参考文献3)、こういったリスクと比較をしても、一人暮らしの与える影響の方が人口レベルでは大きいということがわかりました。一人暮らし=社会的孤立ではないですが、密接に関連したものと捉えておく必要はあるでしょう。
いやいや、一人暮らしでも、別に一人が好きな人にとってはマイナスの影響はないのではないかと考える人もいるかもしれません。しかし、実際のところは、孤独を感じていなくても、あるいは抑うつ状態の影響を取り除いても、社会的な孤立があるだけで独立した認知症のリスクであることが報告されています(参考文献1,2)。
「孤独を感じること」以上に一人暮らしが危険?
加えて、人間関係と孤独感をそれぞれ別々に評価した研究には、孤独感では認知症リスク増加との関連が確認できなかったものの、人間関係や社会的なサポートを欠いている人では認知症リスク増加との関連が見られたと報告をしているものもあります(参考文献4)。
それはなぜでしょうか、その理由をまとめてみましょう。
まず、社会的孤立は、ストレスへの反応性を高めると言われています(参考文献5)。たとえば、仕事が思うようにいかなかった時のことを想像してみてください。そんなことがあっても、気心の知れた友人に悩みを打ち明けることができれば、ストレスは少しは和らぐでしょう。一方、そうした友人がおらず、そんな夜に一人自宅でいくら美味しいご飯を食べても、なかなかストレスは解消できないかもしれません。結果として、このプロセスは、睡眠不足などのマイナスの影響を招き、脳の健康に悪影響を及ぼす可能性があると考えられています。
また、社会的に孤立した人は、セルフケアを怠りがちになり、健康を害するような行動をとりやすいことも示されています(参考文献6)。たとえば、過度な飲酒や喫煙などがそれにあたります。これらの行動も、認知機能に影響を与える可能性があります。
一方で、社会活動への参加や社会的交流は、脳への良い刺激となります(参考文献7)。社会的な接触が少なくなることで、記憶や言語を使う機会が減り、それが認知機能に悪影響を与え、結果として認知症の発症を早める可能性があるからです。
このように、社会的な孤立には様々な経路を通じて認知症リスクを高める可能性があることがわかっています。
参考文献
1. Elovainio M, Lahti J, Pirinen M, Pulkki-Råback L, Malmberg A, Lipsanen J, et al. Association of social isolation, loneliness and genetic risk with incidence of dementia: UK Biobank Cohort Study. BMJ Open [Internet]. 2022 Feb 1 [cited 2024 Jul 19];12(2):e053936. Available from: https://bmjopen.bmj.com/content/12/2/e053936
2. Shen C, Rolls ET, Cheng W, Kang J, Dong G, Xie C, et al. Associations of Social Isolation and Loneliness with Later Dementia. Neurology. 2022 Jul 12;99(2):E164–75.
3. Desai R, John A, Stott J, Charlesworth G. Living alone and risk of dementia: A systematic review and meta-analysis. Ageing Res Rev. 2020 Sep 1;62:101122.
4. Penninkilampi R, Casey AN, Singh MF, Brodaty H. The Association between Social Engagement, Loneliness, and Risk of Dementia: A Systematic Review and Meta-Analysis. Journal of Alzheimer’s Disease. 2018 Jan 1;66(4):1619–33.
5. McEwen BS. Allostasis, allostatic load, and the aging nervous system: role of excitatory amino acids and excitotoxicity. Neurochem Res [Internet]. 2000 [cited 2024 Jul 19];25(9–10):1219–31. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11059796/
6. Hakulinen C, Pulkki-Råback L, Virtanen M, Jokela M, Kivimäki M, Elovainio M. Social isolation and loneliness as risk factors for myocardial infarction, stroke and mortality: UK Biobank cohort study of 479 054 men and women. Heart [Internet]. 2018 Sep 1 [cited 2024 Jul 19];104(18):1536–42. Available from: https://heart.bmj.com/content/104/18/1536
7. Scarmeas N, Stern Y. Cognitive reserve and lifestyle. J Clin Exp Neuropsychol [Internet]. 2003 Aug [cited 2024 Jul 19];25(5):625–33. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12815500/
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