世界最高峰の老年医学科で働く山田悠史医師が、脳の老化と認知症の進行を遅らせるために「本当に必要なこと」「まったく必要でないこと」を伝えます。
山田 悠史
米国内科・老年医学専門医。慶應義塾大学医学部を卒業後、日本全国の総合診療科で勤務。新型コロナ専門病棟等を経て、現在は、米国ニューヨークのマウントサイナイ医科大学老年医学科で高齢者診療に従事する。フジテレビ「ライブニュースα」レギュラーコメンテーター、「NewsPicks」公式コメンテーター(プロピッカー)。カンボジアではNPO法人APSARA総合診療医学会の常務理事として活動。著書に、『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』、『健康の大疑問』(マガジンハウス)など。
X:@YujiY0402
Podcast:山田悠史「医者のいらないラジオ」
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65〜74歳の3人に1人は難聴
普段から耳の健康について気にかけているという人は、あまりいないかもしれません。音は、その能力を失わない限り、特に意識をしなくても自然に聞こえてくるものであり、その聞こえ方については意識をすることもないと思います。耳を気にする時があるとすれば、耳垢ぐらいのものでしょう。
自然にそこにあるものというのは、失うまでなかなかその大切さに気がつけないのが人の常です。恋人との別れ、兄弟の転居、肉親の死。突然の喪失を経験して初めて、その大切さに気がつくものです。
耳の聞こえも、もしかするとそういった類のものかもしれません。しかし実際のところ、耳の聞こえを失う人の数は決して少なくはありません。加齢に伴うものであれば、聴力の衰えは40歳頃から始まり、65歳から74歳では3人に1人、それ以上の世代では半数以上に難聴があると考えられています(参考文献1)。そして、その大きな原因が実は身近なところに潜んでいます。騒音や大音量に耳をさらすことです。
日々耳にする騒音が難聴につながる
実は、日々騒音を聞くことが、時間とともに私たちの聴力に影響を与えていきます。継続的に大きな音にさらされることは、最終的に難聴の程度に影響を及ぼす可能性が高いと考えられています。特に、高い音を聞き取ることが難しくなるタイプの難聴につながります。
アメリカでの2011年からのデータによれば、20歳から69歳のほぼ4人に1人に騒音による難聴の兆候が見られていました(参考文献2)。また、工事現場など、仕事上で大きな音にさらされていると報告した人々の中では、3人に1人が聴力の問題を持っていました。
大きな音は、仕事に限った話ではありません。実際のところ、日常生活で大きな音を耳にするのも珍しいことではありません。例えば、普段から通勤中などに大音量で音楽を聴いているという人も稀ではないかもしれません。普段は小さな音で聴いていても、電車内などではボリュームを上げているかもしれません。あるいは、野球やサッカーなど、スポーツのイベントでも、こうした大きな音にさらされることになります。
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