「半身で働こう、半身で本を読もう」

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』は、ただの愚痴じゃない!読書と労働の両立を目指す、累計発行部数15万部突破の話題書レビュー_img0
イラスト:Shutterstock

そんな「仕事全身全霊社会」は、女性の社会進出によって(非常に遅々としてではあるものの)徐々に変わってきています。「性別を問わず、それぞれ仕事を持つ家族が協力しながら家庭を回す」ことが少しずつスタンダードになってきたのですね。

この流れを、ここで止めてはいけません。

「家庭と仕事の両立」の実現はゴールとしては十分ではない。私たちはそう主張すべきです。
 

 


例えば、「私は子どもがいないから」と委縮し「やりたいこと」を犠牲にする働き方を自分に強いている人、強いる人のマインドを変えていかなければならないのではないでしょうか。私たちはもっと広い視野で、「仕事の拘束性」と戦わなければならないのではないでしょうか。

だが本も読めない働き方――つまり全身のコミットメントは、楽だが、あやうい。――『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』より

仕事も家庭(の仕事)も、どちらも「やらなければならないこと」。仕事だけにコミットすることや、仕事と家庭の二つだけの両立を目指すことは、私たちの心身を疲弊させます。身の回りからノイズを排除し、身を縮めて「義務」に邁進しようとすれば、きっと私たちはどこかで限界を迎えるし、複雑化する社会をサーフィンしていくための多様性・柔軟な思考は育ちにくいのではないかと思います。


ここで三宅さんが提案するのが、「半身で働く」という考え方。社会学者の上野千鶴子さんがNHK番組「100分deフェミニズム」の中で、旧来の男性の「全身全霊で働く姿」と対比させる形で提唱した言葉です。

働き方だけではない。さまざまな分野において、「半身」を取り入れるべきだ。(中略)「全身」社会に戻るのは楽かもしれない。しかし持続可能ではない。そこに待ち受けるのは、社会の複雑さに耐えられない疲労した身体である。――『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』より

「全身で仕事」だと、家庭が崩壊したり趣味の時間がなくなって自分らしさを失ったりする。「全身で家庭」だと、経済的に不安定になったり家族が離れていったときに自分を保てなくなったりする。「全身で読書」だと、社会活動が不足して孤独になったり頭でっかちになったりする。


仕事だけではなく家庭も趣味も、半身でいい。「家庭」以外のことも、仕事と並ぶ「大切なこと」だと正々堂々言っていい。「働きながら本が読みたい」と主張していい。

そんな価値観を社会で共有することが、「働いている人が本を読めるようになる」社会への第一歩。


三宅さんの祈りが込められたこの渾身の一冊は、発売から3か月足らずで発行累計部数がなんと15万部を突破しているとのこと。ノイズに満ちた、そして驚きと勇気が詰まったこの人を、より多くの人に読んでもらいたいと願っています。
 


文 /梅津奏

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