書き下ろし台本をもとに、チームに分かれて制作


――制作はどのように進めていらっしゃるのですか。

井田さん:まずは原作をもとに台本を作りました。鳥取県在住の森川剛(大和屋かほる改め)さんが、しっかりした台本を書いてくれました。鳥取発の新作バレエですから、ぜひ台本は鳥取の方に書いていただきたかったんです。そうして台本を共有して、作曲チーム、振付チームなどいろいろなチームがシーン別に具体的に話し合って進めています。

【あの『赤毛のアン』がバレエに!?】作者・モンゴメリ生誕150年。ロマンスあり、友情ありの新作バレエの魅力とは?――指揮・音楽監督:井田勝大さんにインタビュー_img0

最近はとても技術が進んでいて、パソコンで楽譜をつくるとデジタルでオーケストラの音源ができてしまうという時代なんです。それで練習用の音源をつくり、出演する子どもたちがなるべく本番に近い状態で稽古ができるよう配慮しています。今回は総勢83人もの子どもたちが出演するのですが、子どもは音楽の速さが変わると、とたんに踊りにくくなってしまうことがあります。ですから、たくさん練習したのに本番ではテンポが違って思った通りに踊れなかった、ということがないように最初につくる音源の速さも慎重に決めています。

ふだん練習してきたことを、本番で一番発揮してもらいたい。生のオーケストラ演奏になったときに、「今まで通りきちんと踊れば楽しいんだ」と感じてもらうこともすごく重要だなと思っています。

 


フリルやふくらんだ袖にまでこだわった衣裳デザイン


――舞台衣裳はどのようなものになりますか?

井田さん:コスチュームデザイナーの武田久美子さんにお願いしています。イギリスで活躍していた素晴らしい舞台衣裳家で、一緒に仕事をしていて心地よい方です。

【あの『赤毛のアン』がバレエに!?】作者・モンゴメリ生誕150年。ロマンスあり、友情ありの新作バレエの魅力とは?――指揮・音楽監督:井田勝大さんにインタビュー_img2
【あの『赤毛のアン』がバレエに!?】作者・モンゴメリ生誕150年。ロマンスあり、友情ありの新作バレエの魅力とは?――指揮・音楽監督:井田勝大さんにインタビュー_img4

衣裳デザイン画。実際にどのような衣裳ができあがるのか楽しみです。

――古典とちがって定番があるわけではありませんから、すべてオリジナルですものね。

井田さん:そうなんです。歴史考証的にも『赤毛のアン』に近づけるように、スカートのフリルやふくらんだ袖の形にまでこだわって製作されています。

【あの『赤毛のアン』がバレエに!?】作者・モンゴメリ生誕150年。ロマンスあり、友情ありの新作バレエの魅力とは?――指揮・音楽監督:井田勝大さんにインタビュー_img6
【あの『赤毛のアン』がバレエに!?】作者・モンゴメリ生誕150年。ロマンスあり、友情ありの新作バレエの魅力とは?――指揮・音楽監督:井田勝大さんにインタビュー_img8
【あの『赤毛のアン』がバレエに!?】作者・モンゴメリ生誕150年。ロマンスあり、友情ありの新作バレエの魅力とは?――指揮・音楽監督:井田勝大さんにインタビュー_img9
 


メインテーマ曲はアニメ「赤毛のアン」の「きこえるかしら」


――親しみやすいメインテーマ曲などはありますか?

井田さん:はい、すてきな曲がありますよ! 序曲は三善晃先生が作曲したアニメ「赤毛のアン」のオープニングテーマ「きこえるかしら」を使わせていただくことになっています。

――はじめてアンがマシュウの馬車に乗って、リンゴの白い花が咲き乱れる道をグリーン・ゲイブルズに向かうときの、うっとりと夢みるような気持ちを表現した曲ですね。心に残るメロディですよね。

井田さん:はい、ご存じの方も多いでしょう。同時に、このバレエのために新たに作曲されたオリジナルの音楽もたくさんあるんですよ。今活躍中の作曲家が、新しいバレエ音楽を作曲するというのは、すごくエキサイティングなことだと思うんです。バレエダンサーたちも、「この曲はどういう気持ちで踊ったらいいのか」と直接作曲家とディスカッションできます。すでにある作品では味わえない、とてもいい経験だと思います。


クリスマスコンサートの練習のシーンで、アンが叫ぶ?


――最後に、「新作バレエ 赤毛のアン」ならではの印象的な場面を一つだけ教えてください。

井田さん:はい、ではたくさんあるうちのひとつだけ。冬になって、学校でクリスマスコンサートが開かれることになり、対話の「妖精の女王」をすることになったアンは、同級生たちと居間に集まって稽古します。そのとき、アンが叫ぶ練習をするシーンがあるんです。セリフがなく振付で物語をつづるバレエで、叫ぶシーンをどのように表現するのか。ここは注目してほしいところなので、お楽しみに。ぜひ鳥取までに観にきてくださいね。

『赤毛のアン』特設サイトはこちら
2024年は「赤毛のアン」の著者、ルーシー・モンゴメリの生誕150周年にあたります。幼い頃に夢中になった『赤毛のアン』シリーズ、もう一度手に取って読んでみませんか? あの頃には気づかなかった、さまざまな新しい発見があるかもしれません。


●プロフィール
井田勝大 いだ・かつひろ 指揮・音楽監督

鳥取県生まれ。東京学芸大学音楽科卒業、同大学院修了。ミラノ・スカラ座、ウィーン国立歌劇場、バイエルン国立歌劇場、東京・オペラの森などで小澤征爾、ズービン・メータのアシスタントを務める。2007年に熊川版『白鳥の湖』公演でデビュー。以降、K-BALLET TOKYOをはじめ、東京バレエ団、新国立劇場バレエ団、東京シティ・バレエ団、牧阿佐美バレヱ団、谷桃子バレエ団などを指揮するほか、ミハイロフスキー劇場バレエ(旧レニングラード劇場バレエ)、ウィーン国立バレエ団、ロシア国立モスクワ・クラシックバレエ団などの来日公演を指揮している。K-BALLET TOKYOでは、選曲・編曲も担当。また、東京フィルハーモニー交響楽団などからアマチュアを含め多数のオーケストラや合唱団の指揮や指導を行っている。トランペットを田宮堅二、田中昭、山城宏樹、指揮法を山本訓久、高階正光に師事。現在、K-BALLET TOKYO音楽監督、シアターオーケストラトウキョウ音楽監督。信州大学教育学部講師、エリザベト音楽大学講師、洗足学園音楽大学非常勤講師。


●聞き手
高木香織(たかぎ・かおり)

出版社勤務を経て編集・文筆業。皇室や王室の本を多く手掛ける。書籍の編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『美智子さまから眞子さま佳子さまへ プリンセスの育て方』(ともにこう書房)、『美智子さまに学ぶエレガンス』(学研プラス)、『美智子さま あの日あのとき』、『日めくり31日カレンダー 永遠に伝えたい美智子さまのお心』『ローマ法王の言葉』(すべて講談社)、『美智子さま いのちの旅―未来へー』(講談社ビーシー/講談社)など。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(共著/リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)。

 


撮影/嶋田礼奈(講談社写真映像部)
取材・文/高木香織
 
【あの『赤毛のアン』がバレエに!?】作者・モンゴメリ生誕150年。ロマンスあり、友情ありの新作バレエの魅力とは?――指揮・音楽監督:井田勝大さんにインタビュー_img10
 
 
  • 1
  • 2