加奈は首を振って、それから意を決したようにこちらを見た。
「お母さん、ずっと隠してること、あるでしょ? 嘘、ついてるでしょ?」
「……加奈?」
「お父さん、単身赴任じゃないんだよね? 本当はほかに好きなひとができたから帰ってこないんでしょ? だからたまにしか会えないんでしょ? ねえ、どうして隠すの? いつまで隠すつもりなの?」
加奈は目に涙を一杯ためて、これまで私が必死で、それはもう必死で隠してきた秘密をぶちまけた。
「どうして……あのひとがそういったの? あなたに話したの?」
すると加奈は、これまでで一番悲しそうな顔をした。それから、私をドアの外に無言で押し出した。
知られてしまった。とうとう、この日が来てしまった。
この3年、時折子どもたちに会いにくる夫と、皮肉にも息を合わせてきたのに。滑稽な猿芝居。バラバラになった家庭の残骸をかき集めた、子どもたちのためについた空しい嘘。
私は呆然と、いつまでも加奈の部屋のドアの前で立ち尽くしていた。
次回予告
【後編】知られてしまった家庭の秘密。母は動揺のあまり……?
イラスト/Semo
編集/山本理沙
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