「その瞬間、僕だけが努力が足りなかったと痛感」


「合格発表を見た時、妻は泣き崩れました。息子はまだ別の学校を受けていたので、2人でスマホで見たときの衝撃を、彼女の悲しみを、僕は忘れません。『私の子なのに受験で合格させてあげられなかった』と慟哭しました。

こんなに頑張らせてしまったのだと胸が痛みました。そして僕はすごく悲しかったけれど彼女ほどはダメージはなかった。息子と美玖の努力には、まったく及ばなかったんだとその時に痛感しました」

第1志望が残念な結果になってしまった息子さん。さらに第2志望の大学附属の不合格も判明します。合格したのは1月の前受け校と、第3志望の進学校でした。このどちらかに進学することになります。通っていた塾の講師に相談すると、第3志望校も素晴らしい学校だし、胸を張って進学するべきだと励まされました。

「まさか、私の子なのに…!?」中学受験で夫の意志を汲み志望校を変更した妻。重課金の挙句の驚きの結果とは?_img0
写真:shutterstock

ただネットの掲示板などを読むと、「高校受験リベンジ」もありだと書いてあります。陵さんがそうだったように、高校受験でも第一志望にしていた学校の高校部に入ることができるので、中学受験時にうまくいかなかった場合、敢えて合格した学校には行かず、公立中に進学し高校受験で再挑戦するという方も一定数いるそうです。

しかし当然、これは本人のやる気が前提。なぜならば、相当に負荷がかかるからです。安易に勧めていい道ではありませんし、実際塾は難色を示しました。頑張ってきた息子さんを見てきたので、合格した学校に進むべきだと助言したのでしょう。

美玖さんは「附属に入れてあげたい。私がもう少し早く切り替えて対策をしていたら……」と打ちひしがれていました。そして陵さんに謝り、「本人にその気があるならば高校で受験しよう」と言い出したそうです。「進学校に行ったら、あなたの言う通りさらに厳しい大学受験が待っている。それならば、高校受験で今度こそ大学附属に」というわけです。

陵さんは、まず本人に確認することに。すると息子さんは「パパの母校に行けないのは残念だけど、俺は合格した進学校にいきたい。頑張った証だから。大丈夫、大学で『合流』するよ」と答えました。

「息子のその言葉は、私たち夫婦のそれまでの長い迷いや試行錯誤、作戦、思いをすべて気持ちよく打ち破ってくれました。どっちだって良かったんです、はじめから。私たちは息子を応援するのがミッションなのに、2人とも効率が良くてうまい道筋をつけることに躍起になっていた。

附属を目指して頑張ったことは無駄ではないけれど、進学校だって本質は変わらない。結局のところ自分次第ですしね。頑張った本人の意志がすべてだと感じました」

陵さんは、美玖さんにその気持ちを率直に伝えます。しかし美玖さんは不合格になった数日後ということもあり、まだ前を向くことはできなかったそう。それでも陵さんは覚悟を決めて合格していた学校に入学手続きをしました。

 


「すべて机上の空論でした」


現在、息子さんは中学に通い、勉強も部活も頑張っているといいます。

「進学校、勉強半端ないです(笑)。僕も昔は留年しないように、定期テストはしっかり勉強していたつもりなんですが、やっぱり6年後の難関大学受験を目指している学校は最初から気合も問題の質も違うなと感じます。

勉強あっての部活動という姿勢なのも、僕には驚きです。運動部なのに週3回、2時間ずつに決められていて、僕からするとそれだけ!? という感じですね。

でも息子はその中で一生懸命時間をやりくりして頑張っていて、もうそれを見ているだけですごいな、と涙が出るんですから笑ってしまいますよ。勉強だって、中1からこんなに難しいのか! とやけに誇らしいんです、僕は何もしていないのにね。

結局、事前に私たちが頭のなかで考えて、ああだこうだと夫婦でケンカしていたことはあまり役に立たなかった。机上の空論に近い。思い通りにならないことだらけだけど、またそこから頑張るっていう当たり前のことを子育てを通して学びました」

美玖さんは、まだ完全復活とはいかないものの、それを息子には悟られないように懸命にサポートをしているといいます。夫の意見を吟味しながら受け入れ、受験に適応しすぎるくらい適応した母。それもまた家族への愛の形なのだと思いました。

このあと次男、三男のサポートも控えているおふたり。果たしてどのような挑戦をするのでしょうか。時がきたら、ぜひ伺いたいと思いました。

最後に、頑張り抜いたお子さんのこれからがさらに実り多いものになるように心から祈っています。


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構成/山本理沙
 
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