「10年戦争」を過ぎて、初めての褒め言葉
——慣れない社長業もしながらの子育ては、お母さまがご家庭のことをサポートされたのかな? と勝手ながら想像していました……。
諏訪:子育てはママ友たちが私の状況を理解してくれて、息子を預かってくれたり、お迎えに行ってくれたりしたんです。友人たちのサポートには本当に助けられました。でも、母も意地悪で手出ししなかったわけじゃなくて、息子が大きくなるまでは遠くから見守っていたのだと思います。社長としての、私の覚悟を見たかったのかなって。
息子が中学を卒業する頃、ようやく母が「一人でよく頑張ってきたわね」って言ってくれたんです。初めての著書『町工場の娘』を出したときも、母が一番喜んでくれた。
社長になってからの10年間、会社経営は試行錯誤で、まさに「10年戦争」でした。母が労いの言葉をかけてくれたのは、そんな時期を乗り越えてようやく落ち着いてきた頃のこと。母も4年前に亡くなりましたが、褒められたときは本当に嬉しかったのを覚えています。母は私の奮闘ぶりをよく見てくれていたんだと思います。
質問「家庭と仕事どちらを取る?」への回答
——諏訪さんは本の中で「スケールアップ」とおっしゃっているように、何か制約があってもそれを言い訳にせず、絶対に成長を諦めない。そんな姿勢を貫いていらっしゃるのが本当にすごいと思いました。
諏訪:全然そんなことないです。でもその昔、経営者向けの講演会に登壇させてもらったとき、質疑応答で男性の経営者の方から、「諏訪さんなら仕事と家庭、どちらを取りますか?」と聞かれたことがありました。その方は、「ちなみに僕は仕事を選びました」とおっしゃっていて。それで、私はこう回答したんです。「私は欲張りなのでほしいものは手に入れます。なので仕事も家庭も両方取りますよ」って。
——かっこいいですね! 会場はどんな反応でしたか。
諏訪:拍手喝采でした(笑)。女性社長がまだまだ少なかったこともありますし、ワークライフバランスのような概念も浸透していない時代でしたから、「仕事と家庭の両方を取る」という考えが新鮮だったみたいです。でも、私自身も驚いたんです。質問をいただいて自然と出てきた言葉だったので。「私ってこういう人間なんだ」って、自分で再確認した瞬間でもありました。
もちろん、両立は簡単じゃなかったですし、一人ではできませんでした。姉も協力してくれましたし、先ほどもお話したようにママ友たちにも本当にお世話になって……。あとは、宅配サービスで炒めるだけで済む食材を利用するとか、動画の早送りにみたいに「とにかく早く動く」ことも心がけていましたね(笑)。
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