「おいお前、小説なんて読んでるんじゃないだろうな?」

10年近く前に職場の大先輩から笑いながら投げつけられた一言を、今でも強烈に覚えています。

帰り際に、通勤バッグから文庫本が覗いていたのを見られてしまったときのこと。「真剣に働いていたら本を読む余裕なんてないだろう」「小説なんて、仕事の役には立たないだろう」そんな思いを、言葉の奥に感じました。

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』は、ただの愚痴じゃない!読書と労働の両立を目指す、累計発行部数15万部突破の話題書レビュー_img0
イラスト:Shutterstock

当時の私はまだ20代で、会社で働くことになかなか慣れることができず、不器用に格闘していた時期。そんな中でも趣味の読書はどうしてもあきらめきれず、本を持ち歩いて満員の通勤電車で押しつぶされながら読んだり、昼食の後休憩をとる会議室でこっそりほんの数ページでも読んだり……今振り返っても、涙ぐましい努力をしていたものです。

しかし、先輩からの一言で私の心は小さく折れてしまいました。

読書って、仕事より優先させたり肩を並べたりしてはいけないものなんだ。少なくとも、世の多くの人はそう思ってくれないものなんだと痛感したんです。それ以来、読書が趣味であることや今どんな本を読んでいるか、バッグには常にKindleと紙の本が入っていることなんかは、仕事関係の人にはわざわざ言わない……というか、むしろ隠すようになりました。

 


対立軸は「仕事と家庭」だけじゃない?

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写真:Shutterstock


しかし、数年前から少しずつ心境の変化が。コロナ禍以降、会社に縛られない働き方、多様な生き方、プライベートと仕事の両立……そんな考え方が、本やネットの中だけでなくて、自分の周辺にも広がってきている実感があります。

「一途に仕事に邁進する私」「会社に対するロイヤリティの高い私」の陰に隠してきた、「仕事の他にも大切なもの・やりたいことがある私」を表に出してもいいのかな。周囲の温度感を神経質に探りながら、少しずつそんな風に思うようになっています。


それでもまだ、もう一段乗り越えなければいけないステップがある。そのことに改めて気づかせてくれたのが、4月に発売されたこちら。

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なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(三宅香帆/集英社新書)

「働き始めてから、本が読めなくなった」
「仕事が忙しくて、なかなか本を読む時間が作れない」

読書が好きだったはずの人たちの嘆きを解析し、「労働と読書が両立する社会」を作るためのヒントを示してくれる一冊です。