懇親会では誰も隣に座ってくれなかった
——ダイヤ精機さんのような製造業の企業は、今も昔も男性が多い職場ですよね。女性で、しかも30代の若さで陣頭指揮をとっていくことに難しさは感じませんでしたか。
諏訪:普通のステップであれば、課長、部長、取締役、そして社長という流れがあると思いますが、私は創業者の娘とはいえ、専業主婦からいきなり「社長」と呼ばれる立場になりました。覚悟はしていたけれど、それなりに気は使いましたよね。なるべく目立たないように黒のパンツスーツを着て、おとなしく振る舞って……はじめはそんな感じでした。女性らしさを見せてはいけない、女性らしさを見せると軽んじられる、そんな風に感じていたかもしれません。
だってね、同業種の懇親会とかに行くと、誰も私の隣に座ってくれないんです。満席でもですよ?
——恥ずかしいから……とかではなくですか?
諏訪:私の隣に座って話していると、他の男性から「さっき若い女性と話してたね(笑)」とか、「諏訪社長と何話してたの?(笑)」とからかわれるからです。そんなふうに言われたくないから、みんな私の隣に座りたがらなかったですね。最初はずっとそんな感じでした。もちろん、直接嫌味を言われることもすごく多かったです。
「お前」呼ばわりされた取引先銀行支店長とのバトル
——本の中でも、「若いから」「女だから」下に見られているかのようなやりとりが、取引先銀行の支店長との一件でも書かれていましたよね。私も読んでいて腹が立ちました。
「私がダイヤ精機の社長になります。今後ともよろしくお願いいたします」
そう告げた瞬間、支店長の態度が変わった。
「社長? 大丈夫なのか? あのな、お前、本気で頑張らなきゃダメだぞ」
「お前……?」
その言葉を聞いて一気に血が上った。
「ちょっと待って。なんでわざわざ挨拶に来たのに『お前』呼ばわりされなくちゃいけないんですか。失礼でしょう。冗談じゃない。ああ、もうやめた、やめた! 社長なんてやめた!」
——『町工場の娘』より
諏訪:あのときほど怒った記憶はないですね。その後、銀行のみなさんが父の社葬を手伝ってくださって、これで和解できた……と思いきや、今度は合併の話を持ちかけられたんです。うちにはあまり魅力的な話ではなかった上に、私に向かって支店長が、「社長には、お辞めいただきます。合併後の新会社社長には、先方の社長に就いてもらいます」と言ってきた。「なんで私があなたにそんなこと言われなきゃいけないの!?」という気持ちでいっぱいでした。女に町工場の社長なんてできっこない。そんな昭和的な偏見が20年前はまだまだ残っていたんです。
最終的には、合併の提案はきっぱりお断りしました。経営者としての自分の強さに気づくことができたのは、やっぱり父の影響が大きかったです。父は昔から、「お前はおとなしいけど芯が強い」と言ってくれていたので。
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