毎年この時期に開催されます日本舞踊協会公演が、本年も無事に終了いたしました。本年は25演目、本当にたくさんのかたにお運びいただいた3日間でした。そして、公演の開催に大きくお関わりになっていらした坂東三津五郎さんに衷心よりお悔やみ申しあげます。とてもとても素敵な、憧れのかたでした。

昨年の舞踊協会公演、「まつり」の舞台稽古にて。復帰なさったばかりの三津五郎さんが客席にいらっしゃいます(手前、頬杖をつかれています)

型破りという言葉があります。もともと教育者の無着成恭先生がおっしゃったことに感銘を受けられた中村勘三郎さんがインタビューなどでよく語られていました。「稽古を積んで型を極めたからこそ、破ることができる。だから型破りと言うんだ。」本当にその通りだと思います。基本をしっかり学び身につけた上での新しいものへのチャレンジ。だからこそ面白みがあり味があり、そして品を感じさせる、自分だけの芸になるのだと思うのです。

「男女道成寺」の舞台稽古を客席から

今回「男女道成寺」を観て、勘三郎さんの型破りの話を思い出しました。豪華な舞台、所作の随所随所に混ぜ込まれたウィットの数々、時にはアクロバティックとさえ思える舞踊…元になっている「京鹿子娘道成寺」を知っている人はもちろん、知らない人も舞台に引き込まれ、いつしか客席からは大向こう、拍手の嵐でした。終演後、お客様が頬を紅潮させて楽しそうに帰られてゆく姿にエンターテインメントの真髄を見た気がしました。日本の伝統芸能は難しいと思われがちですが、美しいものは美しくて、面白いものは面白いという実に単純なものなのです。そして自分の好きなものを見つけるのもとても楽しいことです。

勘三郎さん三津五郎さんはじめ、たくさんのかたが伝統芸能を愛し、体を張って表現し、そして一気に生き抜いて行かれました。まるで舞台の幕が、柝の音とともに鮮やかにひかれるように彼らが見せてくださった至芸とその余韻に心から拍手を贈り、そして伝統芸能を通してものごとの本質の部分に気づかせていただけたことに感謝しつつ、これからもこの思いを大切にしてゆきたいと思います。