自分のことは自分で責任を取ってもらう


——とはいえ、パートナーも頑張りすぎない、自分を責めないことも大事、ということですよね。

野波:この本の監修もしてくださっている滝口のぞみ先生に教えていただいたことですが、旦那さんがアキラさんのようなタイプの人だと、奥さんが頑張りすぎてしまうことが多いそうです。「夫に期待できないから私がやらなきゃ」と思って先回りしすぎる妻は疲弊し、夫はどんどんダメになってしまう。やっぱり子育てと同じで、ある程度は手を離して、自分のことは自分で責任を取ってもらうことが大事だと感じます。私も、「妻なんだから夫をサポートしなきゃ」と思い込んでいましたが、それは必ずしも正しくなかったなと今では思っています。
 

このテクニック集は「秘密の攻略本」

——発達障害の専門医である宮尾益知先生、臨床心理士の滝口のぞみ先生の知見に加えて、野波さんが傷だらけになりながら、「これは手応えがあった」「これはダメだった」と経験も踏まえながら書いてくださっているのを、ひしひしと感じます。

野波:今までの経験や、宮尾先生や滝口先生に教えていただいたことを、集大成的に全部詰め込んだ感じです。「あの人」の「秘密の攻略本」ですね。だからこの本は、パートナーにはなるべく見られないようにこっそり読んで、さりげなく実践していただきたいです。「ここに書いてあったからやったんでしょ?」と思われると、かえって「あの人」のプライドが傷ついてしまう可能性があるからです。

——「はじめに」で書いていらっしゃる言葉も印象的です。野波さんは、「今思えば当時の私は『ASD』『発達障害』という名称にとらわれすぎでした。そうではなく、目の前の夫の特性を知り、彼に伝わる言葉・表情を使うだけでよかったのです、きっと」と伝えていらっしゃいます。個性的な「あの人」のためやご自身のために、この本を手に取ろうとしている方にメッセージはありますか。

野波:この本を読んでいただいた方には、「自分が正しい」から、「あの人」に従ってもらおう、という考えに陥らないよう、そこだけ注意していただけたらと思っています。このテクニック集は、「あの人」とうまくやっていくためのもので、相手をコントロールするためのものではありません。「あの人」の行動が変わるまで、長い時間がかかることもありますが、いろいろと無理なく試してもらいながら、ご自身の隣にいる「あの人」との人間関係を作っていっていただけたら嬉しいです。


インタビュー前編
突然会社を辞めた夫。「これからどうするの?」と聞いたら、夫は「どうしましょう?」...発達障害のパートナーとの日常と、そこから私が学んだこと【野波ツナさん】>>
 

著者プロフィール
野波ツナ(のなみ・つな)さん

東京都生まれ、漫画家。少女漫画アシスタントなどを経て青年誌でデビュー。アスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)のある夫との日常を綴った『旦那さんはアスペルガー』(コスミック出版)シリーズは累計20万部に達する話題作となった。他の作品に『うちの困ったさん』(リイド社)などがある。

 

 
“夫の手綱”を妻が握らなくたっていい。発達障害のパートナーとの関係に疲れたときの「自分の守り方」【野波ツナさん】_img4
 

『発達障害・グレーゾーンの あの人の行動が変わる言い方・接し方事典』
著者:野波ツナ 監修:宮尾益和、滝口のぞみ

『旦那(アキラ)さんはアスペルガー』で20万部を超えた著者が贈る、日常に役立つ本格実用書。発達障害の人、未診断だけどその特性がある人に対して、効果的な「言い方」や「接し方」をわかりやすく紹介。「指示は必ず『肯定文(〜して)』で伝える」「『ありがとう』は波状攻撃で」「直してほしいことは『パワートーク』で指摘」など、わかりやすい四コマ漫画やイラストを交えながら、65の具体的なテクニックを教えてくれます。


イラスト/野波ツナ
取材・文/金澤英恵
協力/中満和大(こころとからだチーム)
 

“夫の手綱”を妻が握らなくたっていい。発達障害のパートナーとの関係に疲れたときの「自分の守り方」【野波ツナさん】_img5