妻にも丁寧語で話す、お金を無計画に使う、話し合おうとしても黙ってしまう、他者の気持ちがわからない……。どこかずれている夫との日常を描くコミックエッセイ「旦那(アキラ)さんはアスペルガー」(コスミック出版)シリーズで20万部超のヒットを記録した漫画家の野波ツナさん。
そんな野波さんが最近出版したのが、『発達障害・グレーゾーンの あの人の行動が変わる言い方・接し方事典』という実用書。夫・アキラさんと暮らす中で得た経験、そして発達障害の専門家への取材で得た知識を惜しみなく公開しています。早くも3刷1万2000部に達した本書に込められた思いを野波さんにお聞きしました。
「〜しないで」の否定が、夫にとって逆効果に…
——今回の本は、野波さんの夫・アキラさんとの生活で経験したことが下敷きになっているそうですね。具体的にはどんな問題が起こっていたのでしょうか。
野波ツナさん(以下、野波):子供が欲しがる物を際限なく買い与えてしまうとか、事前に予定を共有してくれないとか、一つひとつはわりと些細なことなんです。たとえば、何でも子供に買い与えることに対して、「教育のためによくないからやめて」と言っても、アキラさんからすると「子供が喜ぶ顔を見られて自分も嬉しい」から、欲しがる物を買い与えることがなぜ教育によくないのか理解できていないんです。
予定や見通しを共有できない、という問題もありました。私が何月何日はこんな予定があるからよろしくねと言うと、「その日は用事があるので無理です」と断られてしまう。それなら先に予定を教えてほしいと何度も伝えましたが、一向に改善されませんでした。息子を出産後に病院を退院するときも同じで、結局、私一人で退院手続きをして家に帰りました。
そんなふうに一つひとつは些細でも、「どう言えばこの人に伝わるんだろう?」と試行錯誤を繰り返す中で、どんどん疲弊していきました。ただ、アキラさんにも悪意があるわけではないんです。だから、なかなか話が通じないんですよね。
——たとえ責めても、本人は「反省すべき点がわからない」ということでしょうか。
野波:そうです。悪意も悪気もないので、怒りをぶつけても「なぜワタシを責めるんですか?」と混乱してしまうんです。ちなみに、アキラさんは妻の私にも丁寧語を使い、一人称はいつも“ワタシ(私)”でした。アキラさんがASD*とわかったのは、結婚16年目のときでしたが、そのことがわかるまで私は「〜しないで」「〜はやめて」といった【NG指令】を使ってきました。するとアキラさんは、「私からの話=ダメ出しで叱られる」と思うようになり、さらに話し合いができなくなっていったんです。
*ASD…自閉スペクトラム症。以前はアスペルガー症候群などの名称で呼ばれていた。
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