ヘラルボニーと企業のコラボレーションは、現在次々と進行しています。契約作家のアートを施したニコンとの初コラボレーションカメラ「Nikon | HERALBONY Z fc」や、「自動販売機で買うアート」と題したTIGRISと共同開発した新しいコンセプトの天然水「トゥモロー・ウォーター」など、目にしたことがある人も増えているかもしれません。

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TIGRISティグリスと共同開発した新しいコンセプトの天然水「トゥモロー・ウォーター」。

「最近では『HERALBONY Art Prize 2024』で企業賞として選ばれた7作品について、それぞれに企画が進んでいます。トヨタ自動車さんが選んでくださった作品「クジラの群れ」は、ラリーカーのフルラッピングに採用され、それを走らせるイベントにてお披露目されました。日本航空さんに選んでいただいた作品は、全路線の機内用紙コップとして起用され、10月から使われています」

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『HERALBONY Art Prize 2024』でトヨタ自動車の企業賞を受賞した作品「クジラの群れ」は、ラリーカーのフルラッピングに採用された。

同賞はその他、東京建物株式会社、株式会社サンゲツ、東日本旅客鉄道株式会社、株式会社ジンズ、株式会社丸井グループより授与され、自社のサービス・プロダクト・事業のいずれかに起用される予定。DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)をビジネスにつなげたいという気持ちは、大企業を中心にこれまでもあったはず。ヘラルボニーは、そのニーズに答える大きな存在となりつつあるようです。
※DE&Iとは、Diversity(ダイバーシティ:多様性)、 Equity(エクイティ:公平性)、Inclusion(インクルージョン:包含性)の頭文字をとった言葉。性別や年齢、出身地や価値観などの違いを認め合い、一人ひとりが最大限に能力を発揮できている状態を指します。

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『HERALBONY Art Prize 2024』で日本航空が選んだ作品は、国内線・国際線ビジネスクラスの機内用紙コップに採用されている。


「障害者って、DE&Iの文脈で語られる他のマイノリティ——性的志向、人種、国籍などの中でも、非常に扱いづらい、触れにくい分野で、ビジネスに繋げることはある種のタブーのように考えられてきたと思います。同時に雇用についても、国が定める障害者雇用率制度(民間企業の法定雇用率は2.5%)があるから働く場所が与えられる、逆を言えばそれ以上は雇用されない、それが現実だと思います。そういう中で、そのテーマにまっすぐ向き合う発想自体がなかったんじゃないかなと思います。

ヘラルボニーがここまでできたのは、やはり代表である松田兄弟の原体験——障害のあるお兄さんに対する社会の理不尽を感じていたから。そうでなければ『障害者を食い物にしたビジネス』という批判も、もっと出たかもしれません。もちろんそういう批判がまったくないわけではありませんが、それ以上に応援してくれる声のほうが大きいように思います。彼らがこのビジネスをする理由——『障害に対するイメージを変えたい』と言い続けてきたからだと思います。

ただひとこと言いたいのは、私たちが障害のある方を助けているんじゃなく、むしろ私たちが障害のある作家さんたちに助けていただいて、ビジネスをさせてもらっているということです。ヘラルボニーに力があるとしたら、それは作家さんが作るアートの素晴らしさがあったから。もちろんその価値を伝えるために意識していることはあります。松田祟弥がよく言うのは、同じ作品でも公民館の壁に雑然と賭けられているのと、美術館の空間や一等地の百貨店のショーウィンドウに飾られているのでは、同じ作品も違って見えると。『この作品には価値がある』という確信があるからこそ、そこは強くこだわっています」

つい先日、創業6周年を迎えたというヘラルボニー。その際に行われた初の全社ミーティングでは「100年後のヘラルボニー」というお題が出され、全社員が様々な目標や夢を掲げたのだとか。その中で海野さんの心に最も強く残ったのは「教科書にヘラルボニーという言葉が載る」というものだったそうです。どんな定義で語られていると思いますか? と尋ねると、海野さんはこう答えます。

「法律や世の中をかえるきっかけになった、社会運動のようなものになっていたらいいなと。障害のある方に関わることって今まで注目されてこなかったから、様々な課題が埋もれてるんですよね。ヘラルボニーが存在を示すことでそこに注目が集まり、課題解決の何かしらのきっかけになるような——そんなふうになったら素晴らしいことだなと思います。資本主義とビジネスの中間のような概念というのもいいかもしれません。山口周さんが、消費者のニーズに徹底して答える資本主義とは異なる、ある種の社会運動を既存のビジネスの仕組みを使って前進させてゆく=『クリティカル・ビジネス』を謳われているんですが、ヘラルボニーは『日本初のクリティカル・ビジネス』というお墨付きもいただいています。そういう歴史も残せていけたら。大きな夢ですけれどね」
 

 


海野 優子
株式会社ヘラルボニーにてブランドコミュニケーションチームのマネージャー。2008年にIT企業に新卒入社後、一貫してtoC事業の企画プランナー/ディレクターとして新規サービスの立ち上げに従事。転職先で編集メディアの立ち上げ後、2017年メルカリ在籍中に原発不明がんを患い、車椅子生活となる。それをきっかけにメルカリの障害者雇用部門を経て、2023年にヘラルボニーに入社。障害当事者の視点を持ちながら、オリジナルブランド「HERALBONY」のブランドや思想を届けるコミュニケーション設計を担当。ECやSNS運営、マネジメントに従事している。


取材・文/渥美志保
編集/立原由華里
 
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