エントランスから見上げる天井高は8メートル。螺旋階段で登る壁面書架に収蔵されているのは、最大で約12000冊の書籍。神保町の交差点にほど近い出版クラブビルのエスカレーターでつながる「クラブライブラリー」は、所属する全国約300社の出版社が「未来に残したい」と寄贈した本が集められた小さな図書館です。本を配架したのは、ブックディレクター、幅允孝さん。こだわりの見どころは、一般的な図書館での分類とは違うオリジナルな8つのテーマで編集された本棚と、2~3ヵ月のスパンで入れ替わる展示「小さな展覧会」。現在開催中の企画は、昨年開催で好評を得た「ジェンダー関連選書」につづく第2弾。その選書に携わった幅さん、そして前のmi-mollet編集長・大森葉子に、ライブラリーの魅力について、今読みたいジェンダー本について、お話を伺いました。
※危険防止のため、通常は上階に上がることはできません。

「ジェンダー本だと企画が通らない、マーケットがない」は本当か?幅允孝・選、あなただけの1冊に出会うライブラリー_img0
 

幅允孝
有限会社BACH(バッハ)代表。ブックディレクター。人と本の距離を縮めるため、公共図書館や病院、動物園、学校、ホテル、オフィスなど様々な場所でライブラリーの制作をしている。2018年から日本出版クラブライブラリー「小さな本の展覧会」構成を担当。2020年開館の安藤忠雄氏の建築による『こども本の森中之島』ではクリエイティブ・ディレクションを担当。最近の仕事として「ミライエ長岡 互尊文庫」や「早稲田大学 国際文学館(村上春樹ライブラリー)」での選書・配架、ロンドン・サンパウロ・ロサンゼルスのJAPAN HOUSEなど。近年は本をリソースにした企画・編集の仕事も多く手掛ける。またNHKで放送された『理想的本箱 君だけのブックガイド』では「理想的本箱」選書家として出演。京都「鈍考/喫茶 芳」主宰。

大森葉子
1974年生まれ。95年婦人画報社(現ハースト婦人画報社)、2000年講談社入社。 「with」「gli(グリ)」「GLAMOROUS(グラマラス)」の美容、読み物記事を担当。ミモレには立ち上げから参加、2018年7月1日から2019年6月末までミモレ編集長。現在は、『VOCE』編集部在籍。美容家・神崎恵とのpodcast番組『WONT』も月・水曜日に配信中。
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知られていないのがもったいない。本と出会うための場所


幅允孝さん(以下、幅): 出版クラブさんから「エントランスロビーをライブラリーにしたい」というお話をいただいたのは8年くらい前です。アーカイブとしてはそれほど多くの本を置ける場所ではないので、集まった本を独自分類し、この空間に相応しいように配架する作業をやらせていただきました。今の「クラブライブラリー」は2018年に出版クラブがこの場所に移転した時に、新しいビルの顔として新設したもの。螺旋階段で登る階上は特別な時に入れるアーカイブとして、階下は手に取りやすい小さなエキシビションをやりましょうという感じで、2~3ヵ月に一度内容を変えて展示しています。

大森葉子(以下、大森):実際に足を運んだのは今日が初めてなんですが、素敵ですよね。こんな駅近で、真夏は涼めるしコーヒーも無料で飲めるし、知られていないのがもったいない。関係者しか入れない雰囲気があるからでしょうか。

幅:「コロナ禍も関係し、人がどんどん来ちゃったら……」と心配しながらつくったら、そうなってしまったそうです。本を手に取る人や時間が減っている今の時代、ふらっと気軽に立ち寄ってもらえる場所にしたいですよね。気づいたら本を読んでいたという心地よい環境が大事ですから。

大森:幅さんが選書している「小さな展覧会」も魅力ですよね。

幅:心に刺さって抜けなくなるような1冊に出会ってもらうことも、この場所の目的です。ライブラリー委員会の方々と一緒に、毎回テーマを絞り、冊数もそこまで多くせず、コメントなども添えながらやっています。