トイレ介助は、動かず話さず、「壁のシミ」を演じながら
そうして、これまでさまざまな現場で学んできたことの中から、今回は「トイレ」と「お風呂」のコミュニケーションについてご紹介します。
そもそもトイレは超プライベート空間。ですから、そんな場所に他人と一緒にいたら、恥ずかしいのは当然です。かつての私は、「人に見られていたら、出るものも出なくなっちゃうわよねぇ……」と違和感を覚えながら、トイレ介助をやっていました。
ある日、トイレ介助をしている最中に、ふと思い出しました。
昔、舞台の演出家から、別の役者が台詞をしゃべっているとき、
「北原さん、ここで消えてみて」
と注文されたのです。
どういう芝居をしていいのかわからず、ひと晩、考えました。そして、役者がしゃべり始めたら、すぐに動きを止めて存在を消してみました。
「そうだ! トイレの中でも、同じように消えてみよう」
トイレにはいるけれど、動かず、目線も合わせない。もちろん、声も発しません。「壁のシミ」になるのです。
ただし、利用者さんはしっかりと視界に入れておきます。
スムーズに用は足している? ちゃんとトイレットペーパーは使えている? 存在を消した壁のシミですが、確認作業はぬかりなく。
ただし、トイレでパンツをなかなか脱いでもらえないときなどには、声かけすることもあります。
「あら、間違えて私のパンツ、はいてます!? お願い、返してくださいよ」
なんて笑顔で頼んで、脱いでいただくこともあります。
無声や喜劇、女優の経験を生かしたコミュニケーションです!
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