世界が広がったら、それまでの悩みが小さく思えた


——弁護士役というのはいかがでしたか。

弁護士=台詞が難しいというイメージがあって。最初にお話を聞いたときは、「弁護士か〜」と思いました(笑)。今回は法廷シーンもなかったので、それほど専門用語が飛び交うわけではないですが、それでもやっぱり説明台詞が多かったので、そこは難しかったですね。やっぱり説明台詞って覚えづらいんですよ。現場でも「台詞覚えにくくないですか」という話になって、みなさんも同じことをおっしゃっていたので、ちょっと安心しました(笑)。

——鶴田さんの弁護士役というと、個人的には『正義は勝つ』というドラマを思い出します。

懐かしい(笑)。あれ、いつぐらいのドラマでしたっけ?

——1995年なので、ほとんど30年前です。

ですよね。もうそんな遥か昔のことは覚えていないです(笑)。

キャリア全盛期にNYへ。鶴田真由が悩めるミドル世代に伝えたいこと「しがみついたまま壊れるより、早めに手放した方が楽です」_img0
 

——(笑)。じゃあ、当時の経験が今回の役づくりに活きたということは……。

まったくないですね(笑)。

 

——鶴田さんは当時25歳。あの頃はいろんなドラマで主人公やヒロインを演じていらっしゃいました。

あの時代はドラマが盛り上がっていましたから、現場も活気がありました。バブルは弾けていたんですけど、残り香的な景気の良さがあって、その後半の余韻みたいなものを味わわせていただいた感覚はありますね。打ち上げも豪華でしたし。

——ご自身はどうですか。主演女優としてのプレッシャーに追われるようなところはありましたか。

若かったので、プレッシャーよりも楽しいという気持ちの方が大きかったですね。ただ、もともと女優になるという強い覚悟を持ってこの世界に飛び込んできたわけではなく、最初は「私も月9に出たい」とか軽い憧れみたいな気持ちで楽しくやってきたものだから、自分がいざそこに立ったときに、急に自分が本当は何をしたかったのかわからなくなってしまって、悩みました。

——はた目から見ていても、ご結婚をされたあたりでしょうか。仕事のペースが変わったというか、シフトチェンジされた印象があって。

正確に言うと、結婚よりもう少し前ですね。確かに周りから見たらドラマ出演などがいちばん多かった時期だったと言えるかもしれません。そうやって大きなお仕事をいただくと、必然的に面白い大人に出会う機会が多くて。自分がカッコいいと思うクリエイターの方とお話ししていると、自分は何を表現したいんだろうとか、そもそも表現って何だろうという疑問にぶち当たるんですね。内容を見つめないで来てしまったツケです。

そんな中で転機になったのが、屋久島への一人旅でした。自然のつくり出す造形美を目の当たりにして、ずっと考え続けていた表現の本質とは何かという問いに対する答えのようなものを拾えたんです。そこから2ヶ月くらいニューヨークで過ごして、美術館に行ったり、舞台を観たり、いろんな芸術にふれていく中で、自分のやりたいことがおぼろげに見えていきました。

——仕事が好調のときに休みをとってニューヨークに行くのって怖くなかったですか。自分が休んでいる間に、自分の座っていた席に誰かが座っちゃうんじゃないかと思うと、なかなか休めないんですよね。

私は逆でした。ニューヨークに行って、世界が広がったおかげで、そういった悩みごとが小さく思えたというか、むしろそこに縛られている方がもったいないなと感じるようになりました。

しがみついたまま壊れるより、早めに手放した方が楽です

キャリア全盛期にNYへ。鶴田真由が悩めるミドル世代に伝えたいこと「しがみついたまま壊れるより、早めに手放した方が楽です」_img1
 

——ミモレ読者は、ミドルエイジが中心です。鶴田さんの40代はいかがでしたか。40代特有の悩みや迷いって何かありましたか。

私はむしろ40代はいい意味で吹っ切れて過ごしていた記憶があります。どちらかというと、苦しかったのはさきほどお話しした20代後半から30代に入る頃かな。そして、30代半ばぐらいから女優にとっては次の世代ががどんどん出てきて、自分のいたポジションは新しい子に変わり、次のタームに行かざるをえない。

40代になると、若い子を見ても「あの子いいよねー」って後輩を見るような気持ちになれた気がします。でも、30代はまだ、次の世代が出てきているという現状を受け入れきれてないところがあったかもしれません。ですが、私はニューヨークに行ったおかげで、その通過儀礼をわりとサッと抜けられたように思います。


——職種によっては、ちょうど40代に入るタイミングで下からの突き上げや世代交代の波に戸惑う人も多そうです。

気持ちはわかりますが、そこはもう手放しちゃった方が楽なんじゃないかなと思います。しがみついたまま壊れてしまうより、流れに乗って手放してしまった方が気持ちも軽くなるし、逆に40代ならではのことが見えてくるように思います。そのために次は何をしたらいいのかということに目を向けられるようになりますから。

——どうやったら、そんなふうに手放す方向へ気持ちを持っていけるんでしょう。

誰もが平等に年はとっていくものなので、そこにネガティブな気持ちを持てば持つほど悲しくなっていく。でも、年を取る分、精神的には経験も積んで豊かになっていくはずなのだから、そこに自信をもって自分を磨いて、歩んでいけばいい。どこかで腹を括って現状と向き合わないと、結局辛いのは自分自身だと思うんです。年齢を重ねて、自分の役割や世の中から求められていることが変わってきているのであれば、それに応えていけばいい。もし悩んでいる方がいるとしたら、いつかやらなくてはいけないことだから、早めにやった方が楽だよと伝えたいですね。