人気カウンセラー・根本裕幸さんの連載、テーマは「しんどい母親の手放し方」。毒母育ちライター・M子のカウンセリングは次のターンへ。母を手放すための最終ステップ「恩恵を受け取る」について解説します。M子が知らず知らずのうちに受け取っていた、しんどい母だったからこその恩恵とは?
〜M子の母はこんな人〜 (※前回までのおさらい)・M子に対して、幼少時から一貫して否定的な態度を取る
・M子にだけ思ったことをそのまま言ってくる、内弁慶な面も持つ
・お見合い結婚した父のことが大好き。M子の兄も溺愛している
面倒な親を持つことで、子の才能やスキルが磨かれていく
M子 前回の「家族の中でバランスをとる」話は、すごく分かりやすかったです。親子なのになんでこうも考え方が違うんだろうと思っていたけど、長年の謎が解けました。
根本 それはよかった。たださきほどの話を振り返ると、M子さんは「愚痴や弱音くらいは聞いてあげたい」と言っていましたね。カウンセリングの冒頭には「お母さんを毒母と呼んで憎み続けることにも疲れてきた」とも。つまりお母さんに対してはいろいろ複雑な感情があるものの、結局のところは嫌いになりきれない、と。
M子 そうですね。
根本 子どもというのは敏感なので、お母さんの葛藤やコンプレックスといった弱い部分をすぐに見つけちゃうんです。さらに母親が自分の前でだけ愚痴をこぼしたり弱音を吐いたりしていると、やっぱり「助けたい」という気持ちが強くなります。助けたいし、救われてほしい。だから、たとえば小学校に上がる頃から中学校あたりまでひたすら親の愚痴を聞き続けた子、なんてケースは全然めずらしくありません。そんなこと、他人だったらできないですよね。なぜできるかというと、それはやっぱり親が好きだからです。
これはM子さんの中にあるもう一つの感情、つまり愛の部分の話です。愛があるからこそ、なんだかんだ言って縁を切らずに40年以上も付き合い続けられるんですよ。時には距離をおいたりしながらもね。
M子 まあたしかに、何とも思っていなかったらできないよな、とは思います。
根本 ここからは次のステップの「恩恵を受け取る」の話にもなっていくんですが、こういうちょっと大変なお母さんを持った子どもは、いろいろな才能やスキルが磨かれていきます。
M子さんの「口が達者」というのもそうです。話を聞いた感じではお母さんもけっこう弁の立つ人だと思うんですけども、そのお母さんと対峙することで、先天的なものがあったにしてもそれ以上に、喋りのスキルが磨かれたというのはあるんじゃないでしょうか。理屈っぽいと言われようが、お母さんを助けるためにどうしたらいいかを必死に考えて、その手段として必死に磨いてきた。その結果、「あんたは口が達者すぎる」と悪口を言われてしまうんだけれども。
でも口が達者になるには頭の回転が速くなきゃいけないし、理屈をこねるにも頭のよさが必要ですよね。それが結果的に、成績や学歴、さらに仕事といったところに繋がっていくんです。お母さんとのやり取りで鍛えられた部分が、今の仕事で役立っているなと感じることはありませんか。
M子 そうですね……。自分が今まで母のことで打ちのめされずにこれたのはこの仕事のおかげだと思ってきたけど、もしかしたらその逆もあるかもしれない。
根本 感情的な母親を持ったことで論理的に育った娘さんは、言葉の強いお母さんと何年も戦ってきているので、パートナーや友人、あとは職場の人とかに対しても、口じゃ負けないっていうような強さを誇ってたりするんです。
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