近年、晩婚・晩産化が進み、いまや不妊に悩むカップルは6組に1組。そのため、「不妊治療」がますます身近な医療となってきました。
不妊の理由ですが、結婚年齢が上がり、子どもをほしいと思う人たちの年齢も高くなってきたことにあります。それでは一体、出産できる限界の年齢は何歳なのでしょうか? 20歳で閉経してしまう人や、49歳で自然妊娠した人もいるため、一概に何歳までと言えないのが現実です。ただ、一般に出産可能な年齢の限界は閉経の10年くらい前と言われています。そうなると特に40代で妊娠したい女性にとっては限られた時間しかないのが現実です。
ところが、日本の文化には、「できるだけ自然にしているのがよい」という考えが強く、薬の使用をできるだけ控え、自然療法や冷え予防、食生活の改善などに取り組む人が多く、貴重な時間を費やすだけではなく、なかなか妊娠に至らず心身ともに疲弊してしまう一因となっています。健康な状態を保つのが大事なのは当然のことですが、それよりもどうすれば妊娠するのか、また、妊娠するためにどのような治療が必要かを正しく知ることによって、確実に妊娠に近づけることになるのではないでしょうか?
そこで、浅田レディースクリニック理事長で、産婦人科専門医・生殖医療専門医の浅田義正医師と、日本唯一の出産ジャーナリストの河合蘭さんが、不妊治療の解説や、最新の研究を踏まえた「妊娠のコツ」を『不妊治療を考えたら読む本 科学でわかる「妊娠への近道」』(講談社ブルーバックス)という一冊の本にまとめました。
浅田医師は、1995年に日本で初めて精巣精子を用いたICSI(卵細胞質内精子注入法)による妊娠例を報告した、顕微授精の第一人者として知られています。また、河合さんは、いくら外見が若くても、卵子が老化していては妊娠しにくいことを指摘し、大きな話題を巻き起こした『卵子老化の真実』(文春新書)の著者。日本における不妊治療の第一人者である二人の共著として注目が集まっています。
本書でも紹介されているのが、「卵巣年齢がわかる」として注目を集めているAMH検査。これは、発育過程にある卵胞から分泌されるホルモンの量を測る血液検査のことです。ただし、卵巣にある卵胞の数、いわば卵子の在庫を推測するためのものであって、実は卵巣年齢を調べるものではありません。
AMH検査の値が高いと、体外受精で排卵誘発剤を使って採卵するとたくさんの卵子が採れるため、「体外授精をした場合の有効性を予想できる検査」として有用性があります。ところが、卵子の在庫が多いということが分かっても、その卵の質がいいか、順調に育つかということは、年齢に一番よく相関します。不妊治療の現場では、年齢とAMH検査の値の組み合わせによって、体外授精で妊娠できる可能性を考えるようになってきているとのこと。40代で体外受精を考えている人にとっては、AMH検査を早めに受けるメリットがあると言えるでしょう。
ところで本書でまず驚かされるのが、日本が「出産に至らなかった不妊治療の件数」が世界第一位であるという指摘。これは日本の不妊治療のレベルが低いわけではなく、むしろ欧米より高いほど。浅田医師は「患者が妊娠に対して正しい知識を持っていないこと」が原因と指摘。浅田医師と河合さんが本書を執筆した理由はそこにあります。
本書では、自然な妊娠の仕組みから、不妊検査の最新事情、タイミング法、卵巣刺激法、体外受精、顕微授精、胚の移植といった不妊レベルにあわせたさまざまな治療法について丁寧に解説。
命のはじまりがどれだけ奇跡的なことで、生命の神秘に満ちているかを知ると同時に、自分が妊娠しにくい場合、どの治療法が適切かを知る手がかりを得ることができる内容となっています。
妊娠するために本当に必要なことは、「妊娠したい」と思った時点で早く医師に相談すること。特に40代ならばなおさらで、貴重なチャンスを逃すことにもなりかねません。そして何より大切なのは、「誰にでも良い魔法の治療」はないということ。本書を読むことで、正しい知識に基づいて、自分にあった治療法を選ぶことが近道だということが納得できるはず。
もし、子どもがほしいと思っていたり、妊娠について不安を抱えていたりするなら、一読の価値がある一冊です。
『不妊治療を考えたら読む本 科学でわかる「妊娠への近道」』
(講談社ブルーバックス)
浅田義正・河合蘭著、¥900
PROFILE
吉川明子/出版社、編集プロダクションなどを経てフリーへ。週刊誌、雑誌、Webサイトなどで執筆、編集を行う。旅と食べることと本が好き。人生の3分の2は減量のことを考えてきた。