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欲深い性格が
スタイリストの仕事に
生きていると思う by 郡山雅代

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第4回目に登場するのは郡山雅代さん。これまでお話を伺った3人とは違って、郡山さんの肩書はプロップスタイリスト。意外と知られてない仕事内容から、インスピレーションの源まで、詳しくお伺いしてきました。

毒々しいキノコを
探し求めて公園へ

アーティスティックなくちびる柄のスカートもさらりと着こなす郡山さん。

ファッションスタイリストと違って、プロップスタイリストという仕事をよくわからない方も多いと思います。プロップとは小道具のことで、時にはリースしたり、時には自分で作って、撮影に必要な空間を作るのが仕事。求められるものは、どんなものでも用意するのがプロップスタイリストです。名前はプロップですが、集めるのは小道具だけではなく、たとえばインテリアの撮影なら家具を用意したり壁を塗ることも。最近だと、カメラマンさんから、どうしてもカエルと毒々しい色のキノコを一緒に撮影したいと言われて、公園にキノコを探しに行きました(笑)。プロップスタイリストを始めて、かなりの年数が経っているので、もう集めたことがないものはないんじゃないか、と思っていても、まだまだ初めての挑戦があって、それをひとつひとつクリアしていくのも、この仕事の面白いところです。

初めての仕事は美容ジャーナリスト
齊藤薫さんの連載ページ

元々、物を作ることもファッションも好きだったので、文化服装学院のデザイン科を出て、ファッションスタイリストの方のアシスタントになりました。ファッションといっても衣装を作ることが多い方で、その制作のお手伝いは楽しかったんです。でも、ファッション自体のスタイリングをしたいかというと違うなと思っていて。物を作ることをメインにするとしたら、インテリアのスタイリストなのかなあと思いながらも行動に移せずにいました。このままでは本当にしたい仕事ができないと思い、やっと決心がついたところ独立。とはいえ、それまでのファッションとはまったくジャンルが違うので、どうやって仕事を探したらいいかわからず困っていたら、学生時代からの友人で物撮りのカメラマン佐藤彩さんが、彼女の師匠を紹介してくれたんです。それをきっかけに彼女の師匠が依頼してくれたのが、雑誌『CREA』の齋藤薫さんの連載エッセイのイメージビジュアル作り。まだ紙の買い方すらわからないときでしたが、一生懸命にイメージを膨らませて、小道具を集め、撮影に臨みました。その連載を担当するようになって、同じ雑誌の別の企画でも仕事を依頼されるようになり、その現場で一緒になったライターさんから別の媒体での仕事をお願いされるようになり……。頼まれたらどんなことでもやってみるという精神で、化粧品の撮影の背景も作れば、料理のテーブルコーディネートもするし、動物だって連れてくる。なんでもやり続けていたら、今に至ったという感じです。

ラバーソールのレースアップシューズにチュールの靴下を合わせてカジュアルな足元。
くちびる柄のポップなスカートとは一転、ジュエリーや時計はシックな黒で統一。


仕事をするうえで重要なのは
粘り強く交渉することと人脈

ありとあらゆるものを作ったり、集めて、いろいろな空間を作ってきましたが、中でも印象に残っているのは、RMKさんのポップアップショップのプロデュース。表参道にある3階建てのショップを、コンセプト作りから任せてもらえたのは、すごくいい経験になりました。ファンデーションのイメージビジュアルをヒントに、紙で白い花を作って、ショップ中に敷き詰めたり、ブランコを設置したり。大道具さんや照明さんとも協力して、ひとつの空間を作り上げたのは本当に楽しかった。自分で言い出したものの、花がなかなか作り終わらず、行こうとしていたマドンナのコンサートを泣く泣くキャンセルしたのもいい思い出です(笑)。

「有名キャラクターの目を×(バッテン)にしたグラフィティアートが知られるKAWS(カウズ)は大好きなアーティストのひとり。家にはKAWSのオブジェも飾っています。Cy Twombly(サイ トゥオンブリー)の絵もよく眺めています」

この仕事をするうえで重要なのは、粘り強く交渉することと人脈なのかなと思っています。どこでも買えるようなものを探すことはないので、ちょっとした手がかりをもとに、交渉して、ダメなら他を探したり、教えてもらったりの繰り返し。長年仕事を続けてきた中で、生き物のことをお願いするならあの人、ガラスのことならあのお店、というふうに頭の中にリストができてきました。それでも想像もつかなかったようなものをお願いされて、イチから探すこともいまだにあるんです。お世話になっているガラス屋さんには夜通しで水槽を作ってもらったこともありますし、知り合いの彫金師の方には、小さなプールを作るために金属管を変形させて、パイプを作ってもらったことも。あるときはどうしても生きたテントウムシを撮影で使いたくて。剥製は持っているんですが、それだとやっぱり色も鮮やかじゃないし、可愛らしく動く脚もない。知り合いの方で虫を捕まえてきてくれる方がいてお願いしたところ、季節的に難しいかなあと言われたんですが、なんとか見つけてきてくれて撮影できたときは本当にうれしかったですね。こうやって思い返してみると、本当にいろいろな方に支えられて仕事が成り立っているなと痛感します。

「プロップを探し出したり、作っていく過程は、まるで宝探しゲームのよう。どこにあるかもわからなかったものを見つけ出したときの喜びは一入(ひとしお)です」

日本だけでは欲しいものが手に入らないので、時間ができたら、海外へ行っては壁紙や照明、布地、器などを買い集めています。空のトランクをひとつ持って行くんですが、帰りにはパンパン(笑)。旅の目的はプロップを買うことと美術館へ行くことなので、ロンドン、ニューヨーク、パリ、ロサンゼルスなど都市ばかり。リゾートでのんびり過ごすというのが苦手なんです。目的のお店をめがけて行くことも多いですが、たまたま通りかかったお店で、思いがけず、自分好みなものに出会うこともあるので、街中を歩いているときは気が抜けません(笑)。先日もパリの街の中をタクシーで走っていたときに、ふと目に入った照明にひと目惚れして。かなり大きなもので、どうやって持って帰ってこようかと思案した結果、あえて梱包もせず、中身がわかる形で手荷物に預けたら、傷ひとつなく日本に持って帰ってくることができました(笑)。幅の広い大きな布が欲しくてロサンゼルスに行ったときは、車をレンタルしたら、出てきたのがリンカーン! でも、それしかなかったので、大きな車を運転してお店に行ったこともありました。

こうやって話してわかったんですが、私ってしつこくて欲深い! でも、きっとこの性格が、プロップスタイリストという仕事に生きているんだと信じています(笑)。

CRECDIT:
トップス/プラダ
スカート/プラダ
時計/シャネル
ネックレス/カルティエ
靴/ステラマッカートニー


次週は斉藤美恵さんが登場! 公開は8月2日(水)です。お楽しみに!

撮影/横山順子 ヘア&メイク/久保フユミ(ROI) 構成・文/幸山梨奈