「フードスタイリスト」や「プロップスタイリスト」という職業があることを、私この仕事をして初めて知りました。お洋服ではなくて、モノとモノをコーディネートして空間を作り出すスタイリストさん。映像の世界でいうと美術さんや小道具さんに近いでしょうか。
私は30を過ぎて一人暮らしを始めたので、インテリア指南本や器、おもてなし料理の本などをいち時期とりつかれたように買っていたのですが、結局「とびきりセンスのよい人」の頭の中は覗けない、ルールは覚えられても、発想までは盗めないなあ……と諦めの境地におりました。

最近出版されたフードスタイリスト城 素穂(じょう もとほ)さんの本『大人のもてなし とっておきの時間 素敵な食卓』を読んで、その“素敵を見つける発想”がほんのちょっとわかったような気がしました。

フラウの連載『およばれてみやげ』
 

城 素穂さんは、フラウの連載『およばれてみやげ』などでも、絵画のように完成された1シーンを作り出す天才!の才能を発揮されています。(と一方的に思いを寄せているだけで、私自身は城さんとまだお仕事をご一緒したことがないのですが)
フラウのサイトに城 素穂さんのブログもありますので、ぜひチェックしてみてください。

この『大人のもてなし』本は、おもてなしのルールやハウツーではなく、それぞれの料理の提案と城さんのスタイリングのインスピレーション、使っている器、おもてなしの心の持ち方などが書かれています。

『大人のもてなし とっておきの時間 素敵な食卓』より「カステラ即席ケーキ」

たとえば、「カステラ即席ケーキ」は、城さんのお誕生日の夜に、突然呼び出されたお姉さんが深夜営業のスーパーでカステラと生クリーム、イチゴを買ってきてお祝いしてくれたエピソードから生まれた提案。夜中にパジャマでつまむケーキだから、緊張しない器に温かみのあるラグ。選ばれた物にひとつひとつ意味があることにいちいちトキメキます。

『大人のもてなし とっておきの時間 素敵な食卓』より「塩漬け檸檬サイダー」

私もすぐやってみたいなと思ったのは、「塩漬け檸檬サイダー」です。
まるごと塩漬けにした檸檬と氷をグラスにいれて、冷やしたサイダーを注ぐだけ。檸檬をつぶしながら飲むんですって。美味しそう!
薄いグラスからは、氷がとけていくカランコロンという音やサイダーがはじける音が、エキゾチックなクロスにより湿気っぽい暑さや、スパイスの香り、注がれるのを待つ女の人や子どもたちの声が聞こえてきそう。

一枚の写真の中から、音や温度や香りまでもが漂ってくるのは偶然ではない!!
この本を読むと、いかに緻密に考えられて、ひとつひとつの小物が選ばれているのかがわかります。城さんの頭の中をなぞるようにしていけば、自分も素敵なコーディネートができるような気がしてくる、そんな一冊です。