仕事に集中できなくてすぐに疲れてしまう、データ入力などの単純作業をなぜか素早くできなかったり、よく間違えてしまう。これらの悩みは自分の性格の問題だと思いこんでいませんか? もしかしたら「脳の働き」が原因かも。2巻が7月29日に発売される『なおりはしないが、ましになる』はそんな悩みを持つ作者が、発達障害という自身の特性とどう向き合うかを描いています。

『なおりはしないが、ましになる』 (1) (ビッグコミックススペシャル) 


9年近く漫画家と会社員の兼業をしていましたが、漫画家の仕事がバレたりして、最近会社員を辞めた作者のカレー沢さん。彼女の悩みは、専業漫画家になり10時間の余裕ができたはずが、まったくそんなふうに思えないこと。

 

今にはじまったことではなく、幼少期からこの傾向があったと語るカレー沢さん。「無職になって楽になるかと思いきや、自分の異常性を目の当たりにすることになってもっとつらい!」会社員を辞めたのも、実は「よそ見」ばかりで全然仕事ができず、周りから嫌われていたというのもある、と言います。
会社員の夫と二人暮らしですが、彼女が会社員を辞めても夫の家事の負担が大きいままでこのままでは離婚間違いなし。そして、部屋を片付けられなさすぎて、ついに自室の床が腐る事態になっている、と担当編集に明かします。

 


「病院へ行け。」
鶴の一声で、通院を決めることに。

中国地方に住むカレー沢さんは東京の病院に「飛行機通院」するとそこの理事長が登場。「さっそくですが、どのようなことでお困りで?」と聞かれ、必死に日常の悩みを説明する、説明苦手なカレー沢さん。

 

「改めて言うと、ただの著しく怠け者で、自己中心的な人では?」「そもそも病院に来るようなことだったのだろうか」自分の状況を説明した後に思うカレー沢さん。すると、理事長は、「発達障害」が原因で起こっていると伝え、こう言います。

同じようなことで困っている人はたくさんいます

 

検査を受けることが決まり、一歩前進。実は自分でも発達障害かも? と何度も疑いつつも、これは自分の性格だと思い込もうとしていたのでした。その理由とは。

 

「とにかく周りからハチャメチャに怒られそうなのが一番の不安」なカレー沢さん。もう会社員ではないし夫以外の家族ともあまり交流がないのに誰に怒られるのか、と聞かれると「ツイッター」だと答えます。

検査前に発達障害について知ります。発達障害は「心」ではなく、「脳みそ」の問題でした。

 

カレー沢さんの場合、注意力を維持すること、単純作業を素早くやることが苦手。聴覚情報を正しく聞き取る能力が低い検査結果になりました。一方、言葉の知識、理解、活用などには強い力がある、と言われて、担当編集が「その『特性』のおかげで先生は漫画やエッセイをたくさん出せたのでは?」と言います。

 

でも、その島が「できないこと」のせいで沈みかかっている現状! どうしたらいい!?

発達障害は治りはしないけれども、自分のやり方や環境を変えることで問題が改善する、と理事長は言います。作者の一日のスケジュールを見てみると工夫して改善できるところがいろいろと。

 

「仕事以外のこと」とは部屋の掃除など。部屋を完璧に綺麗にするのはハードルが高くても、15分だけなら片付けられそう。家事は余裕がある時にやるのではなく、あらかじめやる時間を決めておくのも大事。疲れるとただでさえ無い集中力がさらに無くなるので「休憩時間」も作っておくと良い、と理事長はアドバイスします。

発達障害の人は、とにかく早く検査を受けて、自分の特性を知り「納得」するのがポイントなのだと理事長は言います。そこで注目すべきなのは、作者が「周りから怒られるのが不安」だと言っていた部分。世間の目が気になり、診断に行けずにいる当事者の心境が描かれていました。これは、本人も周りも発達障害のことをよく知らないから起きる不安ではないでしょうか。

本作では、発達障害の検査方法や投薬の効果について、発達障害が引き起こす二次障害、社会の理解について、など発達障害にまつわる現状が描かれ、読むほどに「そうだったのか」と勉強になります。
それどころか、自分の特性を理解し、日常に対するアドバイスを第三者からもらうことはどんな人にも有益なことだと気づけます。自分だけでなく他人の「得意なことの島」を沈めないために私たちができるのは、発達障害とは『なおりはしないが、ましになる』と知ることなのです。

 

【漫画】『なおりはしないが、ましになる』第1話〜3話を試し読み!
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『なおりはしないが、ましになる』
カレー沢 薫(著)

発達障害について、笑いながら一緒に学ぼう。あなたのその“つらい”気持ちも、読めばきっと“ましに”なる。長年カレー沢氏を苦しめていたある悩み。それは「発達障害」についての悩みだった。発達障害への気づき、検査、通院、投薬など、ありとあらゆる出来事を、(おそらく)業界一片付けが苦手な漫画家・カレー沢が華麗に描き上げる!

作者プロフィール
カレー沢 薫

OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』でデビュー。第17回文化庁メディア芸術祭マンガ部門審査委員会推薦作品に選出された『アンモラル・カスタマイズZ』、第24回(2020年度)文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞した『ひとりでしにたい』や、『なおりはしないが、ましになる』などが代表作。
Twitterアカウント:@rosia29

 



©️カレー沢薫/小学館
構成/大槻由実子
編集/坂口彩
 

 

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