女性特有の心疾患とは?


では女性が知っておきたい心疾患とは何でしょうか。

その1 たこつぼ型心筋症

「比較的女性に多いと言われているのが『たこつぼ型心筋症』。心臓の先端が動かず、下のほうだけがパカパカ動く様子が、まさにたこつぼのようなので、世界共通で『Takotsubo cardiomyopathy』と呼ばれているのです。
『たこつぼ型心筋症』の主訴は胸の痛みで、心筋梗塞と非常にまぎらわしいのですが、大災害、ご家族の死、お子様の受験、離婚などで発症が増加するので、強い精神的・肉体的ストレスが心臓に影響を与えていると考えられます。
救急搬送されてきて『たこつぼ型心筋症』と診断された患者さんには、何かきっかけがなかったかを必ず伺います。原因がわからないと再発の恐れがあるからです。
『電話で彼氏とヒステリックに喧嘩をしてガチャ切りしたら、急に胸が苦しくなった』『身内に不幸があった』『試験に落ちた』『上司のパワハラが続いていた』というエピソードはよく伺います。どの年代でも発症しますが、ただ、どういう方が発症しやすいかはまだわかってはいません。
症状は一過性で、状況が落ち着けば多くの方が自然治癒しますが、1〜2週間で治る方もいれば1ヶ月近くかかる方もいらっしゃいます。ただし症状や検査データが命に関わる心筋梗塞にとても類似しているので、まずは病院を受診して検査することが大切です」

何かの拍子に一瞬で自律神経やホルモンバランスが乱れ、「たこつぼ型心筋症」を発症すると考えられています。更年期の女性に多いと言われていますが、若くても思春期や生理前後などは要注意です。

「なんでもストレスのせいにするのは良くありませんが、『この胸の痛みはストレスが収まったら消える』と思って我慢してしまった結果、重大な心疾患を見逃してしまうことがあります。『ストレス』と『胸の痛み』は分けて考えなければいけません。ストレスが原因だとしても症状が強ければ、病院を受診しましょう」

ストレスによる心臓への負荷が引き金になって心筋梗塞や不整脈を起こすリスクもあるので油断はできません。

 


その2 微小血管循環障害(CMD)/血管攣縮性狭心症(VSA)

「胸の痛みを訴える方で、心筋梗塞を疑って調べても、目で見える心臓の太い血管は動脈硬化もなく正常な血管だったというケースです。冠動脈の痙攣が誘発されれば『血管攣縮性狭心症(Vasospastic Angina /VSA)』を考えますが、痙攣すら起こらないケースもあります。そのようなケースの中に、実は顕微鏡でしかみえない微小な血管が痙攣していて、心臓の血液循環が悪くなって胸の痛みがでる『微小血管循環障害 (Coronary Microvascular Dysfunction /CMD』という病気の可能性があります。これは非閉塞性(詰まらない血管障害)で女性に多いのですが、なぜ女性に多いかはまだわかっていません」

心電図や血液検査でひっかかり、CTやカテーテル検査などを受けても血管に異常がみつからないやっかいな病気。そのため、心臓病と診断されない女性も多く、様子をみましょうと言われて、胸の痛みが治まらないままというケースがあります。そうなると、更年期か精神疾患と考えられてしまうことも……。

「診断がつけば、薬物療法で症状がよくなるのですが、診断が難しいのが特徴で、まさに『隠れ心臓病』のひとつと言えます。もし、原因不明の胸の痛みで漂っている方は、心にとめておいてほしい病気です。心臓病の典型的な症状なのに、いろいろ調べて、どれもあてはまらないようなら、『微小血管循環障害』を疑ってそれに合わせた薬を飲む、適度な運動や一般的なケアをする。それでもよくならなければ、心臓以外を疑う。放置しておくと心筋梗塞に発展するリスクもあります。見逃さずにちゃんと評価をしていきましょう」

女性のほうがライフステージおいての環境やホルモンの変動が大きいからなのかなど、女性に多い心臓病について、今後の研究が待たれます。