哀しい刷り込みに、プレ花嫁は……?


「今週の仕事はどうだった? 僕は接待続きで、飲みたくもないお酒を飲まされてさ、タフな1週間だったよ。美月もちょっと疲れてる?」

友人の紹介で3年前からお付き合いが始まった康太は、とても穏やかで優しい。ちょっと優柔不断で頼りなく感じるほどだった。しかし私は父が癇癪をおこしてものにあたったり、お酒に酔って帰宅して母に迷惑をかけたりするのが大嫌いで、とにかく優しくてお酒を飲まない人を選んだ。

「お疲れ様。そうね、私も珍しく忙しかった」

本当は、秘書としてついている役員が出張で、とても気楽な1週間。毎日定時に上がって一目散に1人暮らしのマンションに戻ってのんびりしたり、母とおしゃべりをしたりしていた。

実家は電車で1時間以上かかるため、一人暮らしをしている。平日は、私の世話という名目で母は実家ではなくこちらに寝泊まりしていた。金曜の夜にはさすがに父の世話に帰るが、たいていは次の月曜か火曜に、作り置きのおかずをどっさり持ってやってくる。

そんな生活リズムも5年が過ぎ、両親の間には週末婚というにはもっと冷ややかな空気が定着していた。

 

「美月のお母さん、料理上手だよね。結局週末に俺がほとんど食べてる気がする。結婚のご挨拶の時に、御礼をしなくちゃ。そういえば、両家顔合わせはいつにする? 少し暖かくなった頃がいいね」

 

康太にプロポーズされたのは去年のクリスマス。ムードを壊すわけにもいかず、曖昧に微笑んだのをクールな私の承諾と取ったようだ。しかし「プレ花嫁期間」と呼ぶべきゴールデンタイムを、私はちっとも楽しむことができずにいた。

結婚すると思うと、私の脳裏には両親の様子が浮かぶ。いつも冷ややかな母と、空回りしている父。最近では、当てつけなのか平日には父に「懇意にしている女性」がいるようだと母から聞いていた。

そんな状況で母が別れないのは、結局は経済的な問題であることも、30にもなればわかっていた。別れることもできないのに父を受け入れず、好き勝手に生きはじめたのは母のほう。冷静に見れば、どちらも身勝手に思える。結婚なんてするべきじゃなかったのだ。

そんな二人の間に生まれた私は、結婚して「普通の幸せ」を掴めるイメージがまるでわかなかった。

このままでいいんだろうか。このまま康太と結婚して、幸せになれるだろうか?

そんなことをボンヤリと逡巡していたときに、その衝撃の電話はかかってきた。
 

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仮面夫婦の娘が、結婚するときに立ちはだかった思わぬ障壁とは?
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