緊急事態があぶりだす、本当の気持ち


「え、お父さんが!?」

電話は母からで、半狂乱で話は要領を得ない。父に何かあって、病院が、と切れ切れに単語が聞こえる。こんな時にいい大人が、とイライラして強い詰問口調になる私を、康太が制して電話に代わりに出た。

「――なるほど、わかりました。では今から美月さんを病院にお連れします。何か持っていくべきものがあればご実家に寄りますが、いかがですか? 救急車に乗ったとき、火の元は確認しましたか?」

落ち着いた声で簡単にやり取りをすると、康太は電話を切り、ダイニングから立ち上がるとコートを掴んだ。

「お母さんが今日、家に戻ったらお父さんが倒れていて、救急車を呼んだらしい。脳梗塞で、手術が始まったそうだ。お母さんの着替えや洋服はこの部屋にもあるよね? 念のため1組持っていこう。車、運転するよ」

絶句する私の肩に手を置くと、康太はてきぱきと支度をして、私の手をひいて部屋を出た。私はと言えば、突然のことに動揺して、まるでうまく振舞うことができない。父のことを冷ややかに見ていたつもりだったが、絶対的な庇護者として君臨していた親が居なくなるかもしれないと思うと、胃の奥から不安がせり上がってきて、体が震えた。

自分があまりにも子どもで、ちっぽけで、その醜態に我ながら驚くほどだった。

「康太、どうしよう、パパが」

 

駐車場に降りていくエレベーターで、言葉を発すると同時に、視界が涙でぼやけた。

「大丈夫、手術してるってことは、方法があるってことだよ。落ち着いて。きっと大丈夫」

彼の車の助手席に乗せられ、無駄のない動きで発進した。病院まで高速にのれば30分もかからない。落ち着かなくては、と深呼吸を繰り返した。
 

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日常にひそむ怖い話。こっそりのぞいてみましょう……。
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