「誰か屋根の上に登って確かめられますか?」
「どちらさまでしょう?」
私はできるだけ明るい声で応答してみる。すると若者は屋根のほうを指さした。
「こんにちは、近所に修繕に来た業者です。もう帰るとこなんですけど、ちょうど通りかかったから……お宅の屋根、一部めくれてますよ。ご主人とか、男手があれば、登って確かめられると思うんですけど」
「ええ!? まだ築2年だし、そんなはずは……屋根の何処ですか?」
私は驚いて、少々お待ちください、と言ってインターホンを切ると玄関に出た。サッカーのベンチコートみたいな黒いダウンと、てかてかしたビニールのようなこちらも黒いダウンを着た若い男性が2人、立っていた。車をどこかに停めているのか、2人とも手ぶらだった。
直樹も、おやつをもぐもぐ頬張りながら、玄関にやってくる。
「裏の丘の上から見るとわかるんですけどね。もしご主人がハシゴで登れたら、吹雪く前に見たほうがいいですよ」
「僕、登ってこようか? うちにハシゴある?」
「ううん、屋根に届くようなハシゴはないし、直樹じゃあぶないわ。お父さんも今週はいないし……困ったね」
男たちは、ちらと互いに視線を合わせたあと、うなずいた。
「そうですか。今夜はご主人、いないんですね。俺たち、月曜も修繕があってここを通るんで、そのとき修理依頼があれば言ってください。失礼します」
私は鍵をかけながら、がっかりしてため息をついた。信頼できる工務店に頼んだつもりだったが、2年で屋根がはがれるとは欠陥工事だろうか? 夫が帰ってきたらすぐに確かめてもらって、施工した会社に頼もう……。
ため息をつきながら台所に歩いていく。リビングの暖かさに比べて冷たく、薄暗い。気を取り直して夕飯を作ろうと、パチンと電気をつけたその時。
すりガラスになっている勝手口の向こうで、動物にしては明らかに大きな影がさっと動いたのがわかった。
「きゃあ!」
思わず悲鳴を上げると、ダイニングに戻りかけていた直樹が飛んできた。
「どうしたの!? ゴキブリ? はいないよね」
「誰かが! 誰かがお勝手口から中をのぞいてた」
直樹が走っていって、私が静止する前に勝手口を開けてしまう。外にはもちろん、すでに誰もいなかった。
「……ねえお母さん、さっきの男たちさ、本当に修理業者なのかな? この家に『誰が』いるのか、確かめにきたってことない?」
想像したくない、2人組の男の「目的」。果たして……?
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