もう二度と、見逃さない


わが社でほぼ唯一の、大勢のお客様にケガを負わせてしまった重大事故だった。それ以来20年間、社員はそのケースを詳しく学び、安全教育を受けている。でも、そんな話は初耳だった。

「どうしてもっと真剣に、あの子の涙の理由を聞かなかったんだろうって後悔したわ。その子は胴体着陸事故で骨折して、しばらく入院してしまったの。お見舞いに行ったけれど、お母様が会わせてくれなかった。当然よね。

それ以来ね、決めてるのよ。どんなに小さなことでも、違和感があるなら、無視しない。センサーを張り巡らせていれば、いつか『サイン』をキャッチした人を助けられるかもしれないでしょう? 事故だってもしかして、防げるかもしれない。もし本当に、そんな兆しがあるのなら。私はその力も、プロの勘の力も全部借りて、飛行機の安全を守りたいの」

 

なんだか涙がじわじわとこみ上げてきて、目の淵に力を入れた。鎧塚さんの本気が、伝わってきた。

「だから、今回みたいなのは最高よ! 予感が100回に1回でも当たったら、誰かが助かる。確認したら、きっと防げる事故があるのよ」

喉が詰まってうまく声が出ない。

私は、とりあえず全力で「はいいっ!」と返事を絞り出す。鎧塚さんは今日初めて、「体育会系?」と白い歯をにっこり見せて笑った。

――明日からはきっと、久し振りに、新人のような気持ちで職場に立つだろう。大好きな飛行機のそばで、センサーを張り巡らせて、頼もしい仲間たちと一緒に。

【第11話予告】
採用試験を担当した男が気づいた、「奇妙な志望者」とは?

空港の「奇妙なハプニング」。そこにはとある法則があり……?
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イラスト/Semo
構成/山本理沙

 

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