先日、Twitterを見ていて興味深い光景を目にしました。それは、イーロン・マスクによる「.」(ピリオド)のたった一文字だけの投稿。すぐに「いいね」がつきはじめ、今ではなんと27万件(!)を超えるいいねがついています。反響の大きさはもちろん、投稿された「.」の真意を探るべく、謎解きに興じる人が後を絶たなかったことも印象的でした。

みなさんもご存知の通り、イーロン・マスクは今世界で最も注目される起業家のひとり。経営する企業は電気自動車メーカーの「テスラ」、宇宙開発ベンチャーの「スペースX」、脳埋め込みデバイスを開発する「ニューラリンク」、地下トンネルを使った高速交通の開発を進めるトンネル掘削会社の「ボーリングカンパニー」など、いずれも“空想の世界を実現する”ような、未来を感じさせる壮大なスケールの事業ばかり。「.」の一文字も次の一手のヒントでは? と多くの人が想像を巡らせた気持ちもわかる気がします。

2020年5月、米スペースX「クルードラゴン」が初の有人飛行テストの打ち上げに成功(提供:NASA/Science Photo Library/アフロ)

それにしても、マスクはなぜ、「規格外」のビジネスモデルを次々と思いつくことができるのでしょうか。日経ビジネス電子版前編集長の山崎良兵さんは、著書『天才読書 世界一の富を築いたマスク、ベゾス、ゲイツが選ぶ100冊』でマスクの“愛読書”に注目。そこでわかったのは、経営や経済学と並び、マスクにはあるジャンルが大きな影響を与えているということでした。一体、そのジャンルとは? 本書から特別に、一部抜粋してご紹介します。

 


子どもの頃から「SF」が大好き

写真:Shutterstock

イーロン・マスクが読んでいる本のリストを見ると、SFが非常に多いことに驚かされます。マスクが子どもの頃は1日に2冊の本を読む“本の虫”で、とりわけSFが大好きでした。アイザック・アシモフ、ロバート・ハインライン、イアン・バンクスなどが著した、さまざまなSFを読んでいます。

SFを愛読してきたことは、マスクに大きな影響を与えています。再利用可能な宇宙ロケットを開発して火星を目指すというマスクの計画は、子どもの頃にSFを読んで想像した世界を自ら実現しようとしているようにも思えます。

多くのSFは「未来を先取り」しようとしています。現在の科学理論などをベースに、はるか先の未来を想像するため、宇宙を舞台にしたSFには「恒星間航行」「ワープ」「ホログラフィー」「アンドロイド」といった多様な技術が登場します。

“究極の未来”を想像するSF的な思考は、イノベーションにつながる刺激やヒントに満ちています。例えば、SFテレビドラマの『スタートレック』に登場するコミュニケーター(通信機)は、携帯電話・スマートフォンによく似ており、『スター・ウォーズ』に登場する立体的な映像で人が現れて話をする3Dホログラムも、実際に使われるようになりました。