「“茹でガエル”にならないため」日本経済新聞社を退職した経済ジャーナリスト・後藤達也さん

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高橋 辞めるに際して、迷うところはありませんでしたか?

後藤 たしかに辞めていいんだろうかという迷いは当然ありました。でも、何で辞めたかというと、大きい明確な理由があるわけじゃないんですね。たぶん誰でもそうだと思うんですけど、いろいろなものが積み重なって最終的に辞めたという感じです。

その一つとして、このまま10年先、20年先、ずっと新聞ビジネスというものが続いていくのかどうかを考えたときに、難しい局面になるだろうと思いました。

 

高橋 ここでちょっと下世話なことをお聞きしますけど、公表されているデータから言いますと、「東洋経済」の給料ランキングを見ると、日経新聞社の40歳だと年収1500万円から2000万円の間ぐらいいきそうじゃないですか?

後藤 そんなにいかないと思いますけどね(笑)。私はアメリカに行ってたので最後にいくらもらっていたのか、円ドル換算でよく分かっていないですが、たぶん、テレビ東京さんと同じぐらいだと思います。

高橋 1000万円は超えてますね。だとすると、結構、ヤバくないですか? それを捨ててフリーランスになるってことは⋯⋯。まだどことも契約してないですもんね。

後藤 完全フリーです。個人事業主ですから。

高橋 仮に40歳で1500万円として、月に100万円くらい入ってきたものがゼロになるわけですよね。それ、ヤバいなと思うんですけれど、恐怖心はなかったんですか? 退職を躊躇する原因って、大抵そこだと思うんですけど。

後藤 そうですよね。生活するのに十分な給料はもらっていたと思いますし、10年後、20年後は分からないですけれど、3~5年くらいではそんなに増えないかもしれない。一方で、劇的に下がる可能性もあまりないだろうという意味では、当然、辞めるのを迷うポイントではありますよね。ただ、40歳を過ぎると、高橋さんも肌で感じていらっしゃるかもしれないですけれど、この先、一つ歳を取るごとに外に出られる可能性ってどんどん狭まると思うんです。

高橋 それはありますよね、現場感覚で。

後藤 ですから、自分の今の時価総額というか、将来的に毎年稼げる可能性のあるお金の累積額みたいなものがあるとすると、年々落ちていくわけです。下手すると、45〜50歳を過ぎるとガクンと落ちるかもしれない。しかも、辞めても他の会社が全く雇ってくれないとかね。

そういう点で言うと、目先のお金はもらえていて、それはキャッシュインしてきたとしてもですね、その裏側で、1年の間に自分の価値はそれ以上落ちてるかもしれないわけですよ。それが、いつ、どのタイミングで起きるか分からないですけれど、40歳を超えると急角度で落ちていくかもしれない。

高橋 ヤバい、ヤバい。もう40歳ですよ。

後藤 60歳になって、はたと気づいたときに“ヤバい!”と思っても遅いかもしれないわけです。遅くない可能性もあるけれど、私の同期で残って頑張っている人たちもいるので、彼らも成功することを祈っています。

ただ、現実的なシナリオを考えると、あえてここで飛び出すのは、”茹でガエル”になりたくないからだと思っています。茹でガエルって、初めはぬるくて少しずつ熱が上がっているのに全然気づかなくて、最終的に死んでしまう。言い換えると、38歳と39歳では普通に過ごしてたら変化を感じないですよね。40歳と41歳も変化を感じない。でも、38歳と48歳だと劇的に違ってるかもしれないわけです。