「もうすぐ夏休みも終わりだな~。宿題終わったか?」

金曜の夕暮れ、いつもどおりベンチに座る彼女の横に、俺も座った。真夏の公園は人気もなく、たまにはいいだろう。

「宿題なんて、初日に終わったもん」

「お!? すごいな、オレの勝負は31日の夜からだったけどな。お嬢様は真面目だなあ、えらいじゃん」

「……お嬢様なんかじゃない。真面目でもない。iPadで、ベッドに隠れてYouTubeみてるし」

「おお! ここに住んでるって言ってたひと? そんな面白いならオレも見たいかも」

彼女ははっとしたようにオレの顔を見た。それから聞いたことのない女性の名前を小さなな声でつぶやいた。言葉をかけようとした瞬間、突然男の手が彼女の頭を、後ろからものすごい勢いで叩いた。

「おい! 何すんだよ!」

思わず声を上げながら振り返り、男の手をつかむ。

会社帰りのサラリーマンという風体。神経質そうな細いあごに、銀縁メガネ、一筋の乱れもないオールバック。

 

「失礼、娘がこんな遅くまで油を売っているもので」

「……! お父さんですか。失礼しました、でも後ろから急に叩くのは」

オレは抗議しながらも、彼女の様子を見た。こいつが本当に親とも限らない。

しかし予想に反して、彼女は「お父さん」と言うと、そのサラーリマン男に駆け寄った。どうやら本物の父親のようだ。しまった。つい元田舎のやんちゃ坊主だった頃の調子で攻勢に出てしまったじゃないか。

「帰るぞ、エリカ。お巡りさん、失礼しますよ」

厭味ったらしい調子で男はそう言うと、女の子の手を強引に引っ張った。

 

2人は手をつないで、住宅街のほうに歩いていく。女の子が振り返ったら……と思ったが、父親と並んで歩き、こちらのほうは見なかった。

オレは交番に戻ると、町内会の台帳を開く。こんなものがあるとは驚きだったが、この一帯は意外に古くからの町会が機能している。

オレは女の子のリュックに書いてあったちょっと珍しい苗字を探す。やはり、二人がかえった坂のうえのほうに、その世帯主の名前があった。

――ふうむ。

オレはその夜、交代の警官が来てからも、しばらく考え込んでいた。

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夏の夜、怖いシーンを覗いてみましょう…。
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