平穏な日常に潜んでいる、ちょっとだけ「怖い話」。
そっと耳を傾けてみましょう……。

 

第31話 傍若無人な麗人

 

「え? 東京のお義姉さんが来る? なんだって急に来るんだよ、まさかうちに泊まるんじゃないよな?」

予想通り、幸平さんはこれ以上ないほど顔をしかめた。

ワイシャツを乱暴に脱ぎ捨てると、こちらに放ってくる。私は寝室の床に散らばったシャツや靴下をかがんで拾いながら、わざとのんびりと答えた。

「泊まらないよ、あの人、超高級ホテルにしか泊まれないの。でも神戸の学会なんて珍しいからあなたとお義母さんに挨拶をしたいって、土曜日。いいっていったんだけど、こんなチャンスはないからって。本当に強引なのよ。言い出したら聞かないの、昔から」

私はため息まじりに話しながらも、押し切ることに必死だった。

姉の茉莉花が来ることはもう「決定事項」なのだ。今さら幸平さんがいくらしぶったって、あの人は来る。きっと来る。なんとか了承してもらわなければならない。

「まあ、いいけど、俺も忙しいんだ、昼から出かけるから午前中にしてくれよな。おふくろにも言っとけよ、急に来られたんじゃ慌てるだろうからね」

幸平さんはやれやれと首を振りながら、スマホを握りしめてバスルームへ向かう。さっきから何度も来るメッセージに気を取られているようだ、よかった、これでなんとか。

私は、昔からターミネーターのように目的遂行に忠実な姉を怒らせずに済んで心底ほっとする。美人で勝気な女医。中身はまるで男のような、私と正反対の姉。

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夏の夜、怖いシーンを覗いてみましょう…。
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