短時間の診療でもできることはたくさんある


 通院精神療法の保険点数(令和4年度)
イ 精神保健福祉法第29条又は第29条の2の規定による入院措置を経て退院した患者であって、都道府県等が作成する退院後に必要な支援内容等を記載した計画に基づく支援期間にあるものに対して、当該計画において療養を担当することとされている保険医療機関の精神科の医師が行った場合660点

ロ 区分番号A000に掲げる初診料を算定する初診の日において、60分以上行った場合
(1) 精神保健指定医による場合560点
(2) (1)以外の場合540点

ハ イ及びロ以外の場合
(1) 30分以上の場合
① 精神保健指定医による場合410点
② ①以外の場合390点
(2) 30分未満の場合
① 精神保健指定医による場合330点
② ①以外の場合315点

(1点=10円)
しろぼんねっとより引用)

 


白川:通院精神療法では、例えば60分診察するとして、精神保健指定医の場合が560点、それ以外は540点です。ところが30分以上60分未満の場合、精神保健指定医の場合が410点、それ以外の場合が390点。30分未満、これは5分でもよくて、5分以上だったら同じなのですが、精神保健指定医の場合330点で、それ以外の場合でも315点なんです。ひとりを5分で診た場合と30分いっぱいいっぱい診た場合との違いは80点、つまり800円しか違わないんです。

なんだか世知辛い話なんですけど、例えばひとりに5分くらいかけて1時間に10人診たとすると1時間で33000円、12人診れば39600円です。例えば精神保健指定医が予約料を取らないで、ひとりに30分ずつかけて診たとします。1時間で8200円です。ひとりを5分で診る場合と30分で診る場合を比べたら1時間で約4~5倍違うことになります。収入が4~5倍も違うってすごいことですよね。こういった医療の限界もあって、予約料を取らないと経営が成り立ちませんし、予約料を取ってももう全然追いつかないという現状があるんです。

写真:Shutterstock

ーー診察でひとりあたりに時間をかければかけるほど経営が厳しくなってしまうということですよね。

 

白川:当然そうなります。でも、短い時間で診ている先生にもいい先生がたくさんいますし、いわゆるトラウマ治療をなさらない先生にもいい先生はたくさんいると思いますよ。トラウマ治療を必ずしなければいけないということはないし、特に発達性トラウマには長期間にわたってじわじわとアプローチしていく必要があります。単純にひとりに時間がかけられない現状が悪いとも言い切れないところがあるのです。その先生の持ち味やスキルによる部分が大きいですし、トラウマ治療以前に、トラウマを念頭に置いた配慮である「トラウマインフォームドケア」がとても重要ですので、あとでお話ししますね。

短時間でトラウマ治療を行うやり方も出てきていますし、西洋薬も漢方も効果があります。例えば私がトラウマ治療を10分でするとなったら、対人関係にものすごく焦点を当てたり、心理教育を基盤にしたコーチングみたいなことをするかもしれません。実際にそういうふうにやっていた時期もありました。短い時間でできることもいっぱいあるんです。私の治療は始めた頃よりはずいぶん早くなっていて、現状では15分あればかなりのことができます。それ以外にも親子双方に治療が必要な人を組み合わせたり、処理のターゲットを決める短時間の診察と処理を行う長時間のセッションを組み合わせるなど、いろいろと工夫をしています。精神科医がたくさん診療を行って、トラウマ治療ができる心理士/師さんを多数雇用しているところは良心的です。同じ施設でも違う施設でも、精神科医と心理士/師の協力が大切になってくると思います