「よいものに適切な付加価値をつけて売る努力」を

 

ただやはり、良質なコーヒーはこれまでのように「安く気軽に手に入るもの」ではなくなるかもしれません。コモディティコーヒーの世界でも努力は続くはずなので、低価格で高品質なコーヒーもなくなることはないと思いますが、いまほど手軽に手に入ることはないでしょう。

人生観を変えるほどの素晴らしい品質のコーヒーを楽しみたいのであれば、相応の金額を支払うことが必要になるはずです。日本はスペシャルティコーヒーがもっとも浸透している国のひとつです。コモディティコーヒーの製品レベルも世界トップクラスで、消費者がスペシャルティコーヒーに触れる機会も数多くあります。美味しいコーヒーにお金をかけることに対し抵抗感のない人が少なくありません。

日本スペシャルティコーヒー協会の調査によると、日本のスペシャルティコーヒーの生豆輸入量におけるシェアは約11%だそうです。

日本はオークションで世界最高価格で落札されたコーヒーや、世界中の品評会で入賞した豆を数多く輸入しています。海外のマーケットでは売れないような高価な豆を販売している日本は、視察に来た外国人にもよく驚かれるほどです。美味しいコーヒーを気軽に飲むことができる土壌ができたのも、熱意を持って奮闘してくれた先人たちのおかげであることは間違いありません。

だからこそ、これからの時代に求められるのは、「よいものに適切な付加価値をつけて売る努力」だと思っています。良質なコーヒーは今後収量が下がり、価格も上昇するかもしれません。だからこそバリスタは、高品質な原材料を素晴らしい技術、接客、空間演出を持って美しく提供する努力をしなければいけないと思っています。

既存の薄利を重ねるビジネスモデルではなく、いかに素晴らしい顧客体験を想像できるのか、という観点に立ってビジネスモデルを構築する必要があると考えています。その姿勢が、本質的なサステナビリティに直結すると信じています。

 

著者プロフィール
井崎英典(いざき・ひでのり)さん

第15 代ワールド・バリスタ・チャンピオン。株式会社QAHWA 代表取締役社長。高校中退後、父が経営するコーヒー屋「ハニー珈琲」を手伝いながらバリスタに。2012年に史上最年少でジャパン・バリスタ・チャンピオンシップにて優勝し、2連覇を成し遂げた後、2014年のワールド・バリスタ・チャンピオンシップにてアジア人初の世界チャンピオンとなり、以後独立。コーヒーコンサルタントとして年間200日以上を海外でコンサルティングに従事し、Brew Peace のマニフェストを掲げてグローバルに活動。コーヒー関連機器の研究開発、小規模店から大手チェーンまで幅広く商品開発からマーケティングまで一気通貫したコンサルティングを行う。日本マクドナルドの「プレミアムローストコーヒー」「プレミアムローストアイスコーヒー」「新生ラテ」の監修、カルビーの「フルグラビッツ」ペアリングコーヒーの開発、中国最大のコーヒーチェーン「luckin coffee」の商品開発や品質管理など。テレビ・雑誌・WEB などメディア出演多数。著書・監修本に『世界一美味しいコーヒーの淹れ方』(ダイヤモンド社)、『理由がわかればもっとおいしい!コーヒーを楽しむ教科書』(ナツメ社)、『世界一のバリスタが書いた コーヒー1年生の本』(宝島社)など。過去作は累計10万部突破。

 

『世界のビジネスエリートは知っている教養としてのコーヒー』
著者:井崎英典 SBクリエイティブ 1760円(税込)

「コーヒーの貿易取引総額は、石油に次いでなんと2番目。世界中で一日に飲まれているコーヒーは20億杯」! コーヒーはなぜ世界中で愛され、文化となり、さらには大きなビジネスとなったのか。世界で活躍するバリスタ・チャンピオンが教える、ビジネスパーソンこそ知っておきたいコーヒーの教養を詰め込んだ一冊! 身近だけれど意外と知らない「コーヒーとは何か?」について、井崎さんが多角的な視点で掘り下げていきます。


写真/Shutterstock
構成/金澤英恵