犬猫とお年寄りが一緒に暮らす特別養護老人ホーム


犬と猫と一緒に、最期までのひと時を穏やかに過ごす――。そんな特別養護老人ホームがあるのをご存知でしょうか。神奈川県横須賀市にある「さくらの里 山科」には、救い出された保護犬や保護猫が入居するお年寄りたちに寄り添い、その静かな時間を見届けています。

「さくらの里」の日常を観察し、人と動物たちの温かなやりとりを記した本が、石黒謙吾さんの著書『犬が看取り、猫がおくる、しあわせのホーム』。石黒さんは映画化もされたノンフィクション作品『盲導犬クイールの一生』の著者でもあり、本作でも自らカメラのファインダーを覗きながら「さくらの里」を記録し続けました。

本書には撮影した4000におよぶ点数の中から、109枚の写真が掲載されている。全てモノクロームで撮影されたことで、動物たちの豊かな表情に目がいく。(写真=本書より)

本書では、人の死期がわかる看取り犬「文福(ぶんぷく)」の不思議なエピソードや、犬と猫、ホーム内でそれぞれのユニットに分かれて暮らす様子、そして人と動物の奇跡のような物語が綴られています。入居するお年寄り一人ひとりに人生の物語がある。それと同じように、ここに暮らす猫や犬たちにも様々な背景がある。殺処分を逃れて「さくらの里」にいる保護猫や保護犬たちにも、石黒さんは人と同じように眼差しを向けます。

 

殺処分のリスクを避けるには

人の死期を感知できる「看取りの犬」文福。保健所から救い出されてこのホームに。(写真=本書より)

そんな本書の中で、ある一つの現実を知って驚きました。「さくらの里」は特別養護老人ホームとしては日本で初めて、犬や猫と一緒に入居できる「同伴入居」を実現させたのだそうです。となると、犬や猫を飼っているお年寄りたちはこれまでどうしていたのか。「さくらの里」のように、飼い猫や飼い犬と同伴入居を許可している施設は多くないそうです。石黒さんは本書の中でこう語っています。

誰しも、自分が老いるまで一緒にいた犬猫たちと離れるのはつらすぎる。僕も犬と猫と暮らしているが、自分の身に置き換えて想像してみたら、絶対無理、という気持ちが痛いほどわかる。しかし、認知症をはじめさまざまな症状や状況で施設に入らねばならないケースは多い。そんな時、犬や猫たちはどうなるのか?

いい方向としては、飼っていた犬や猫を、子ども、きょうだい、親族などが引き取ってくれること。そして考えたくもない方向としては、家族や親族が、保健所に差し出してしまうこと。つまり、その先のほとんどで殺処分が待っている。
――『犬が看取り、猫がおくる、しあわせのホーム』より