たしかに、家族や親族とはいえ色々な事情で動物を飼えないこともあるはずです。それ以前に、長年連れ添って家族よりも家族のように思っている飼い猫、飼い犬と離れ離れになるのは、「施設への入居」というやむを得ない事情があるにせよ、飼い主にとっては心を引き裂かれるような出来事のはず。

「犬猫とずっと一緒にいたいから、というシンプルな願望を叶えるための同伴入居だが、副次的にこのような犬猫保護の一助にもなっている」と、石黒さんは「さくらの里」の取り組みについて語ります。

 

「同伴入居」した、山口さんと愛犬チロの話

ポメラニアンのチロ。余命3ヶ月だった飼い主・山口さんとともに2015年に同伴入居。(写真=本書より)

開設当初こそ、飼い主とともに入居するケースは少なかったそうですが、入居者の山口宣泰さんと愛犬チロのエピソードには、「同伴入居」がどういうことなのかが感じられる物語が記されていました。 

「俺はチロに看取られたいんだよ」。口グセのようにいつもはっきりそう言い続けた山口宣泰さんは、この子と同伴入居してきた時、末期がんだった。2015年11月、余命3ヶ月という宣告を受けたあとに入居するという前代未聞のケース。それは、病院での治療もホスピスでの延命もいっさい切り捨て、ただただ、愛する犬と一緒にいると決断したことを意味する。
(中略)
山口さんの口グセがもう1つあった。「少しでも長くチロと一緒にいられるようにがんばるぞ」。そのために食欲がないのに食べていて、大きらいなピーマンを口にしているところを目にした娘さんは相当驚いていたそうだ。

こんな強い意志は、結果に対して噓をつかなかった。3ヶ月と告げられていた終着点は、チロと一緒にいられる多幸感からだろう、ずっとずっと延びていった。
――『犬が看取り、猫がおくる、しあわせのホーム』より