調停委員の一言が妻を救った


「夫は、僕の彼女を紹介したいと。そして、彼女はあちらのご主人と離婚の意志があるのかないのか、それとなく探ってほしいというのです。開いた口がふさがらないとはこのことで……。頭が真っ白になりました。なんとか口にできた嫌味は、『私、あなたのお母さんじゃないので』。

10年以上、一緒にいたのに、私はこの人の本質を分かっていなかった。真心というものがこの世にあるのならば、私と彼のそれはまったく違うものなんだと思いました」

この一件で、いずみさんは3年といわず、できるだけ早く離婚しようと決意します。晴馬さんの支払いで一軒家に住めるのはメリットと言えばメリットでしたが、それよりも精神的に健やかでいられることを優先することに。

離婚を考えたとき、とくにお子さんがいるご夫婦の場合は経済的な事情から躊躇するのは当然のこと。もしもそのために踏みとどまり、夫婦仲の改善に努めるのであれば、それもまたいい選択だと思います。

しかし同時に、理不尽な要求や傷つくような関係性は、すっぱりと断ち切る自由もあるはず。ここまで我慢したのだから、ここで離婚したら悔しい、などの感情を手放すことも大切です。

その後いずみさんは弁護士に相談し、離婚調停に入りました。予想通り、晴馬さんの主張はことごとく覆され、調停委員の全員がいずみさんに有利な判断を下したそう。

 

「あなた、そんな勝手はまかり通らないと思いますよ」

と、年配の委員のひとりが晴馬さんに言ってくれたことで、いずみさんはとても救われ、新しい一歩を踏み出そうと思えたといいます。

夫婦の形は人それぞれですが、他人同士から始まるタッグである以上、すべてはお互いの合意のうえに成り立つもの。巧妙にどちらかの都合ですすめられそうになったときは、受け流さず、傷ついたことを伝え、その都度話し合っていく必要があります。

 

そしてもし、二人だけの話し合いで平行線になったときは、一方的な条件を押し付けられて流されてしまうまえに第三者に相談をするというのが有効かもしれません。

最近離婚が成立したおふたり。いずみさんは晴馬さんがローンを支払っていた海辺の一軒家を出て、お子さんと都内の職場に近いアパートに引っ越しました。年収から算出された養育費と慰謝料を受け取り、シングルマザーとして育児をしながら仕事も頑張っていらっしゃいます。

蛇足ですが、晴馬さんはその後、浮気相手の夫に怒鳴りこまれ、300万円を支払ったということです。

「人生って自分ではコントロールしきれないことが起こるんですね。正直、今でもどうして彼と私が離婚したのか、不思議に思うこともあるんです。そのくらい、長く親密に一緒にいたし、相手を分かったつもりになっていたんです。でもこうなったからには、なにがあっても振り返らずに進んでいきたい。子どものために、自分のために」

取材の最後にそうおっしゃったいずみさん。取材中で一番、素敵な笑顔が印象的でした。これからの毎日が、充実していることを心から祈っています。

写真/Shutterstock
取材・文/佐野倫子
構成/山本理沙
 

 

 

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