70歳になると、賃貸物件はお金があっても借りにくくなる。かといって、学費に物価上昇、退職金も思うようにもらえない時代には、住宅の長期ローンにも無理がある……。「家族が支え合う」時代から環境が大きく変わった今も、“日本の制度は時が止まったまま”と指摘するのは、司法書士の太田垣章子さんです。著書の『あなたが独りで倒れて困ること30』の中で特に切実だと感じたのが、高齢者の「住まいの問題」。

核家族化や少子化が進み、生涯独身を選ぶ人、離婚も増える中、誰もが「おひとりさま」になる可能性のある社会で、将来住まいに困らないために準備すべきこととは? 太田垣さんが実際に見てきた高齢者のトラブル、2つのケースを本書からご紹介します。


【ケース1】高齢者の一人暮らしは「ゴミ屋敷」になりがちって本当…?

 

一戸建てを購入したり建てたりする際、将来的に夫婦ふたり、もしくはひとりで住むことを想定する人はいるでしょうか? 基本は今、家族で住むために一戸建てを選ぶ人が大半だと思います。ところが月日が流れると、家族構成も変わってきます。そうなると必然的に、使わない部屋も増えてきます。

よくあるのが、高齢になり膝が痛くなって、寝る部屋を1階に移したら、2階には何年も上がっていないという話。1階にあるキッチンやトイレ、バスルームといった設備が生きるのに必要なものなので、それが揃っているエリアだけで生活が成り立つというのです。

特に男性にその傾向が強く、広い一戸建てであっても、結局のところ水回りと寝るスペースだけで過ごしている、私もそんなケースをたくさん見てきました。

譲さん(仮名・76歳)もその中のひとりです。一人住まいになって、15年以上になりました。奥さんが長年の闘病の末に亡くなってから、嫁いだ娘二人も家に近づかなくなってしまいました。

 


「散らかった部屋」を娘たちに見られたくない


その理由は二つ。一つは、昭和スタイルの「誰の金で生活できてきたと思っているんだ」的な態度を、この令和の時代に妻ではなく娘たちにしてしまい、彼女たちから敬遠されてしまったこと。二つめは、譲さんの家が片付いておらず、それを娘たちに見られたくなくて、娘たちを自分から遠ざけてしまったこと。

これらに加えて、娘さんたちも子育てに忙しく、最近では、娘家族たちとは年に数回、外で食事をするだけになってしまっていました。

譲さんは、大学で建築を教えていました。そのため家の中にはたくさんの本や資料があり、それらが山のように積まれているため、今にも崩れ落ちそうです。

 

傍からすると、その資料っていつ見るの? 捨てても良いのでは? と思ってしまいますが、譲さん自身は「どこにどの資料がある」か、ちゃんと分かっています。捨てるという選択肢がないため、どんどん床が見えなくなってしまっていました。

さらに、ゴミを分別して捨てるのが面倒なため、どんどん家中に溜まっていくのです。これはゴミ屋敷にありがちな状況です。