ゆっくりとゆっくりと、湖水へと


湖水にぽつんと浮かぶと、心のストレッチができる気がします。ヨガをしているような気持ちよさを感じる、小さなことはどうでもよくなってきます。

硬くなっている心がほぐれる、というのかな。

ゆらゆらと揺れる。胎児のころの記憶はないけれど、こんな感じなのかもしれませんね。私、これでもしあわせだと思っています。でも他人が思うより、何かを抱えて生きているとは思う。みんなそうですよね。

私もいろいろありました。いや、あります。現在形です。

そのなかのひとつ、聴力を失っていくことで、夫や母との関係を悪くしていった。こちらに歩み寄ってくれなければ、コミュニケーションはとれなくなります。

障害者だけでなく、その家族も生きづらくなるんですよね。

中途失聴者はふつうに喋ることができます。だから相手も喋ろうとする。夫との日常会話は、読唇と表情、空気を読みながら、交わしていました。母とは日常会話にさえならない。単語だけのカンタンな筆記。

人工内耳にしてから、夫がつぶやいた言葉が忘れられません。
「これで僕はひとり暮らしから解放された」

湖畔からの心地よい風が吹くデッキで夫婦の時間を過ごす。 (写真:『66歳、家も人生もリノベーション 自分に自由に 水辺の生活』より)

なかなか重たい言葉でした。結婚したころは、軽度難聴ですからふつうに会話していました。それがここ10年くらいかな、混み入った話はできなくなった。

 


やがて会話がなくなった。まるでひとり暮らしをしているようだった、と。