強制収容所を経ても「心身の健康」を保てた3割の女性の特徴は?

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——「首尾一貫感覚」を提唱したアントノフスキー博士は、かなり過酷な状況を経験した方たちを調査対象にしたんですよね。

舟木:ユダヤ人強制収容所に収容されていたにもかかわらず、更年期になっても「良好な健康状態を維持することができた3割の女性」が対象でした。若い頃に強制収容所を経験しても、更年期に心身の健康を保つことができた3割の女性の特徴は、先ほどお伝えした「有意味感」「把握可能感」「処理可能感」、この3つの感覚が高かったということなんです。

「人生は山あり谷あり」と言いますが、その女性たちの人生はほぼ“谷”だったと思うんです。そんな谷にあっても、自分にとって意味あるものを見つけたり、「ここを抜け出したらこんなことがしたい」と希望を見出していた。「把握可能感」や「処理可能感」は、災害や戦争、強制収容所ではほぼ使い物にはならないんですけれど、その3割の女性たちは、目の前にある人間関係だったり、ほぼないに等しい資源をどう活用すれば厳しい現実から抜け出せるかに、知恵と思考を巡らせることができた方たちだったのだと思います。
 

ユーモアを忘れないことは、過酷な環境下を生きる糧

 


——正直、極限状態に追い込まれると「なんとかなる」「だいたいわかった」とは全く思えないですが、その中でも考え方を変えることで、生き抜ける可能性があるということなんですね。

舟木:例えば、『夜と霧』を書いた強制収容所の被収容者であり、精神科医でもあったヴィクトール・E・フランクル氏は、ユーモアを「自分を見失わないための魂の武器」だと言い、「人生には意味がある」と思うことができた人でした。収容所という過酷な環境下でも、「褒状」とひきかえにもらったタバコをスープ1杯と取り替えた方が得策だろうかなどと考えたり。そんなふうに知恵を絞り、今ある資源を使いこなしながら生きながらえた人でもあったんです。

収容所のほぼ具がないスープを題材にみんなでギャグを作ったりと、ユーモアを忘れないことでなんとか正気を保っている人もいた。極限状態を生き抜いた人たちの心の持ちようは、現代社会を生きる私たちにも通じるヒントがあると思います。

次回「失敗体験が少ないとストレス対処力は上がらない!?不安でなんとかなると思えないあなたに伝えたいこと【舟木彩乃さん】」は1月24日公開です。

 
 

『「なんとかなる」と思えるレッスン 首尾一貫感覚で心に余裕をつくる』
著者:舟木彩乃 ディスカヴァー・トゥエンティワン 1650円(税込)

1万人以上をカウンセリングしてきた公認心理師の舟木彩乃さん。本書で伝えるのは、不安やプレッシャー、焦りや凹みに対処するストレスマネジメント術「首尾一貫感覚」についてです。「だいたいわかった」「なんとかなる」「どんなことにも意味がある」と思える3つの感覚を持つために、物事をどう捉えていけばいいのか、実践的な内容を、わかりやすい言葉で詳しく解説!

撮影/小野さやか
取材・文/ヒオカ
構成/金澤英恵