「物事を客観的に捉える」ことと「ポジティブ思考」は別物

写真:Shutterstock


——ちなみに、「なんとかなる」と捉える首尾一貫感覚は、「ポジティブ思考」とはニュアンスが違うんでしょうか? 本の中では「ポジティブ」という言葉を積極的に使われていないですよね。「ポジティブ思考」ってすごく流行りですし、それが正解となりつつある部分もあると思うのですが。

舟木:違いますね。私がベースにしているのは「認知行動療法」という心理療法なのですが、それは無理やりポジティブに捉え直すものではなく、客観的、現実的な捉え方をしていくものなんです。簡単に言うと、まず「自分の思考の癖」に気付いていくという感じです。

例えば、LINEを既読スルーされた場合、「嫌われてるのかな」「やっぱり自分って大切にされていないのかな」と思ってしまう方がいるとします。この思考パターンは一体何なのかというと、「スキーマ(schema)」といって、心の奥深くに「自分は尊重されない人間だ」という自己イメージがあり、それが「固着してしまっている」状態のこと。だから似たような場面で、同じようなことをネガティブに捉えては、傷つくということを繰り返してしまうんです。

だからこそ、まずは「自分の思考の癖」に気付くことが大切なんです。「自分の思考の癖」に気付くと、いろんな場面でまたその思考癖が出てきた時にも、「他の考え方はないかな?」と現実路線で考えていくことができます。

 


「上司に挨拶を無視された…」あなたはどう捉える?


舟木:同一の思考パターンに陥りやすいことを「枠組み(価値観や考え、ものの捉え方)が狭い」という言い方をするんですけど、「枠組みが狭い」人は、不安を感じやすく、把握可能感を持ちづらいです。そういう人は例えば、上司に「おはようございます」と挨拶したのにリアクションがなかった時、「私は嫌われてる」と捉えてしまうんです。

けれど、その捉え方で本当に合っているの? という話ですよね。もしかしたら、上司には挨拶が聞こえていなかったかもしれないし、忙しくて返事を返せなかったとか、いろんなことが考えられますよね。

写真:Shutterstock


——「あれ? 声が小さくて聞こえてなかったかな」と思ったりするかもしれません。

舟木:でも、「無視された」「嫌われた」と思い込んで、気に病んでしまう方って本当に多いんですね。それに対して認知行動療法では、上司が「自分のことを嫌っている」以外の可能性を考えていきます。今おっしゃったように、ただ挨拶の声が小さかっただけかもしれない。次の会議のことを考えていて上の空だったのかもしれない。そんなふうに、「別に嫌われているとは限らない」と考えてみると、心が楽になっていくんです。