結婚・出産や子育て段階でも広がる格差

写真:Shutterstock

牛窪:結婚・出産後の近接居住が増えるということは、嫌な言い方ですが、富裕層の親御さんが多く住むエリアに、その子世代も結婚して住み続けるということです。当然、逆も真なりで、私たちがエリアごとの傾向を調査しても、年々エリア格差が開いていることを痛感させられます。

経済格差は、悲しいかな、現状では教育格差にも繋がっています。子どもたちは違うエリアの子たちとも一緒に遊びたがっているのに、比較的裕福な親御さんたちは「そっち側に行くんじゃないのよ」「こっち側で(裕福な子たちと)遊びなさい」など、格差を助長するような残酷な言葉を言ったりする。子どもたちにも、いつの間にかそうした意識、つまり階層が違う人たちと深く関わらないほうがいい、との思いが刷り込まれてしまうんですよね。

——経済格差が恋愛や結婚の意欲、結婚相手を見つけられるかに影響を与えるというのは深刻な問題ですね。

 

「結婚・出産はエベレストに登るようなもの」

写真:Shutterstock

——本の中でも、若者の「奨学金」の負担が大きく、結婚を自分事と思えないことに危機感を示していらっしゃいますよね。今実施されている、あるいは検討されている政策って、子どもを産んだら奨学金を減免しますよとか、結婚・出産したら支援しますよというものが目立ちます。でも、その前に非正規だったり奨学金を抱えていたりして、結婚や出産を自分事と思えない若者には響かないですよね。

牛窪:とくに政治家や官僚はほとんどがエリートで、岸田内閣でいえば親や祖父母からの世襲議員が4割を占めるなど、富裕層も多いですから、奨学金という名の多額の借金を背負った若者の現状など、想像もつかないのでしょう。
私が、年明けに放送されたテレビ番組「『子どもがいない世界』がやってくる?」(NHK総合)に出演した際には、若者から「結婚・出産はエベレストに登るようなもの」という声が上がりました。「毎日の生活で精一杯で、とても山に登る余裕はない」、その感覚をわかっていない大人たちも多いはずです。

しかも、結婚した人たちは、「こんな相手と結婚して損した」「子育てしながら働くのは大変だ」という話ばかりして、エベレストの山頂(結婚・出産後)から見た景色の美しさを伝えるケースがあまりにも少ない。特に独身女性は、共働きの既婚女性ばかりに負担がかかっていそうな現実に思いを馳せ、「無理してエベレストに登ってまで、さらなる苦労を背負いたくない」と言うのです。この言葉には私も、本当に考えさせられました。

次回はアプリ恋愛の落とし穴、自由恋愛の問題点についてお話を伺います。

 

『恋愛結婚の終焉』
著者:牛窪 恵 光文社新書 1034円(税込)

「いずれは結婚するつもり」という若者が8割以上いるにもかかわらず、なぜ日本では未婚化が進み、少子化が解消されないのか。「恋愛は面倒」「恋人は欲しくない」という若者たちが結婚に向かうために、従来の「結婚」の常識を再考。「結婚には恋愛が必要だ」という呪縛を解き、「結婚に恋愛は要らない」とする新たな「共創結婚」を著者が提案する。


取材・文/ヒオカ
構成/金澤英恵