「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」のがマッチングアプリ

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——マッチングアプリや婚活アプリが普及しても、決して結婚する人が増えているわけではないそうですね。「アプリがなくても相手と巡り会える人が、アプリを使うことで時短になっているだけ」という分析が印象的です。

(ニッセイ基礎研究所の天野馨南子氏の見解を見ると、)マッチングアプリで結婚まで至れるような男女は、もともと恋愛や結婚の「積極層」に多く、そもそもアプリがなくても、いつかは誰かと出会えていたのではないか、と想像できます。だとすれば、アプリによって出会えるまでの“時間”は多少短縮されるかもしれませんが、出会える人の“数”の増加には、さほど寄与しないのかもしれません。

                       ——『恋愛結婚の終焉』より

牛窪:先日、東京大学でAI研究を続けている20代の学生さんと話したのですが、彼はマッチングアプリのシステムは「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」だと分かっていました。たとえ自分に一定の魅力があっても、自分がアプリの上位に表示される時間帯に、たまたま自分を好んでくれる人がアプリを開いているとは限らない。その逆も言えて、要は魅力の程度より、マッチングの確率を自発的に引き上げられる人が勝つ、とのこと。彼はAIを使って、多くの女性と「自動で(寝ている間でも)」対話できるシステムを開発中で、「極論では、恥も外聞もなく次々と相手を誘える人が有利」なのだと教えてくれました。

確かにそうですよね。誰でもいいから、マッチングした人と、まずは積極的にやり取りしてデートしてみる。そこでうまくいけばいいし、だめならだめですぐ次に行けばいい。そう割り切れる人の方が成功確率は高いということです。

 


自由恋愛は自由競争。取り残される人が出てくる

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——そもそも恋愛や結婚に積極的な人が、マッチングアプリでも形勢有利というのがよくわかりました。個人的には、恋愛や結婚の出会いツールとして、アプリが主流になったことの弊害もあると感じていて。「私と恋愛・結婚してください」とアプリで手を挙げるというのは、つまり自分を商品棚に並べるようなことで、品質管理はもちろん、年収や学歴などある意味“血統書”のようなものも求められる。本の中で、非正規雇用の人の「自分は恋愛できる身分じゃない」という声も紹介されていましたが、そういう方たちが手を挙げにくくなっている気がすごくします。

牛窪:先ほどの学生さんの言葉を借りると、「恥も外聞もなくいろいろな相手を誘える人」がアプリでうまくいくということは、逆をいえば「相手を誘うことを躊躇してしまう人」「軽い人間だと思われたくない人」は、アプリに登録してもなかなか結婚相手を見つけられない可能性が高い、ということなんです。誰の紹介でもなく自由に恋愛できる社会はつまり、自由競争の社会でもあります。「自由」を掲げる恋愛では、経済活動と同じく、「積極層」が勝ち組になれる可能性が高い半面、そうではない人は取り残されやすい。